取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
シンガーソングライターの松本千夏が、4月26日に新曲「となりあわせ」を発売した。今作はTVアニメ『おとなりに銀河』のオープニング主題歌で、自身初のタイアップ、初の書き下ろしに挑戦した記念すべき1曲。
カップリングにはCD限定で「ガソスタ」、「めんどくさい」の新曲2曲が収録。配信曲として新たに「ガソスタ」 Remix Ver.と松本のデビュー曲「歌って」のRemix Ver.がリリースされ、聴きごたえたっぷりな内容となっている。
今回Vocal Magazine Web初登場となる松本に、各曲でのこだわりや歌唱アプローチはもちろんのこと、これまでどんなふうに歌を磨いてきたのか、そしてさまざまな歌表現に果敢にトライするスタンスについてなど、じっくり語ってもらった。
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miwaさんの響かせ方に憧れて、小6の頃ずっと声マネをしていた
──Vocal Magazine Web初登場ということで、最初に松本さんの歌声を形作ったルーツについて聞かせてください。小さい頃からダンスやミュージカルを習っていたそうですが、当時はどんなふうに日々歌っていたのですか?
松本 小学4年生の頃から歌っていたのですが、ミュージカルのレッスンが午後6時から7時半までダンス、7時半から9時まで歌という感じで分かれていました。歌のレッスンではピアノの先生を囲んでみんなで円になって、“ウ〜〜”(救急車のサイレン音のように音階を上下する)という発声練習や、プルルルというリップロール、そしてタンバリンを叩きながら歌うという練習をやったり。ミュージカルではグルーヴ感やリズムがすごく大事になってくるので、16ビートで(タンバリンや足踏みを)入れながらダダッダッダッダダ〜♪と歌う練習をやったりしていました。
──特にコレは効いたぞ!というトレーニングは?
松本 今もよくやるんですけど、先ほど言った“ウ〜〜”という発声練習。前に向かって声を出すのと上(の音)を響かせるのってすごく違いがあって大事なんです。前に声を出すときは前面に届くように、上のときはココ(鼻腔のあたり)で響かせるように。よく「千夏ちゃんってミックスボイスだよね」って言われることがあるんですけど、ミックスボイスを鍛えるためには“ウ〜〜”で音を上下させるときの(裏声と地声の)切り替えが大事で。前に声を出すときも上のときでもちゃんと響かせる、その中間もきれいに音が通るということを意識しながら今もずっとやってます。あとちょっと変な練習なんですけど、“ニャ〜”って猫の鳴き方があるじゃないですか。それもココ(鼻腔)を響かせるためによくやってましたね。
──当時、歌い方に憧れていたアーティストはいましたか?
松本 今でも声が似てるって言われるんですけど、miwaさん。でもそれには理由があって、小6の頃、それまでスコーンって抜けてた音が急に(かすれ気味に)ハーッみたいな感じになって、高い声が出なくなっちゃったんです。歌のソロに選ばれなくなっちゃって……悔しくて。そのときmiwaさんの裏声ってすごくきれいだなと気付いて、ずーっとモノマネをしてたんです。そしたらmiwaさんの響かせ方が自分でもできるようになってきて、高い声が得意になったんです。だから似てるっていうのは、私がmiwaさんの声マネを練習したからかなと思います。
──声マネの練習はヴォーカリストを目指す人にお薦めだと感じますか?
松本 私はmiwaさんだけですけど、それで声が出るようになったので、人のマネをするって大事なんだなと気付けましたね。やっぱりマネすると“あ、これでこの音が出るんだ”ってわかってくるんですよね。私はそれがきっかけで歌声がけっこう変わりました。
──そのときは録音して自分で聴き返したり?
松本 いや、もう永遠に練習するっていう(笑)。あと家族に「今、似てる?」って聴かせたりしてました。特に高い声の練習はずっと聴かせてましたね。あと週に一度歌のレッスンがあったので、歌の先生にずっと聴いてもらえてたのは大きかったかもしれないですね。
自分はコレ!って縛られたくないし、自分で可能性を潰したくない
──当時から自分の声に特徴があるなと感じていましたか?
松本 当時はあんまり思ってなかったです。
──自分の声を武器にしようと覚悟を決めたタイミングや、ターニングポイントはありましたか?
松本 最初みかんサイダーという弾き語りユニットをやっていて、それを始めたのがターニングポイントでした。人生経験として路上ライブがやりたかったからっていう始まり方なんですけど、活動してるうちにファンの子たちが増えて。自分の身の周りじゃない人たちから「歌声良いね」って言ってもらえたのがきっかけだったと思います。身近な人は褒めてくれるけど、自分のことを何も知らない人が歌声で好きになってくれるんだって、感動したのを覚えてます。
──みかんサイダーの歌を聴かせていただき、当時からすでに自分の歌唱スタイルが確立しているように感じました。歌い方を模索したり、歌で挫折した経験はありましたか?
松本 高校時代のみかんサイダーの活動の途中までは、弾き語りをしてもミュージカルの歌い方だったんですよ。ミュージカルは舞台上の端までしっかり聴こえることが大事なので、とにかく声を張る。でもそれってミュージカルだから良いのであって、弾き語りでそれをやって良いわけじゃないんだなって気付いたんです。
──声の出し方が少し違ったんですか?
松本 私にとっては全然違くて。ミュージカルで習った発声とか腹式呼吸みたいなことじゃなくて、それこそ音楽活動を始めてから録音するようになったんです。“あ、ココはまだ声張り過ぎないほうが良いな”とか“こういったウィスパーボイスを好きな人がいるんだな”とか、そこから研究し始めて今の歌い方になったと思います。
──声色をより意識するようになっていったんですね。今までボイトレに通った経験というのは?
松本 ミュージカル時代はあくまでミュージカル用のレッスンだったので、本格的なボイトレというのは、ほぼしてないです。
──今の歌声をご自身で分析すると、どんなところが特徴的に聴こえたり、特に好きだと感じますか?
松本 よく語尾がフッて上がるって言われるんです。でも無意識なので、「やってみて」と言われるとできなくて(笑)。でもそれが良いねって言ってもらえるので、特徴なのかなって自分では思っています。
──ブレスのタイミングで少し裏声が入るようなニュアンスですよね。難しそうなテクニックだなと感じていたんです。
松本 それが実際テクニック的なものなのか、クセなのかもよくわからないんです(笑)。でもそこを言ってもらうことは多くて。あとはやっぱり声質ですかね。すごく嬉しいです。
──毎回ジャンルに捉われない楽曲を生み出しながら、新たな歌唱表現も取り入れる柔軟な姿勢を感じています。自分のヴォーカルスタイルを貫くところと、さまざまな歌唱表現にトライすることのバランス感についてはどんなふうに考えていますか。
松本 曲作りの段階でラップっぽいことをやったり、いろいろやってみるんです。あとよくカバーをするんですよ。今はYOASOBIさんの「アイドル」を練習していたり。自分はコレ!っていうふうに縛られたくないし、自分で可能性を潰したくないんです。例えば「アイドル」を聴いて“うわぁ、こういう表現できるの良いな”って思ったら毎回練習して、それを自分流で歌えるようにします。そういうのを何でもトライして、良いなと思ったものは取り入れて。それで曲作りのときにやってみて“あ、これダメだわ”と思ったらやめるし、“意外とこういう歌い方いけるかもしれない”と思ったら取り入れちゃいます。
──目指しているアーティストとしての在り方や、ヴォーカリスト像みたいなものがあったりするのでしょうか?
松本 リスペクトしてるアーティストさんはいっぱいいるんですけど、その中のひとりとしてNakamuraEmiさんがすごく好きで。自分のネガティブな部分も歌い上げていて、Emiさんこそ感情の人だなって思うんですよ。しかもめっちゃHIPHOPみたいな感じもやるんです。“あんなにかわいい声でHIPHOPやるんだ”ってすごく感動して。そういう部分では、自分も声が高めでかわいい声って言われやすいけど、かわいい曲やバラードだけじゃなくて、ホントはやってみたいHIPHOPとかも積極的にトライしてみようって、Emiさんを見てよく思うんですよね。