【インタビュー】新世代のカリスマフィメールラッパー、Elle Teresaが歌で表現する“自分らしさ”
2022.07.21
取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
自分のうま過ぎないところも好き
──Elleさんがビートやバックトラックの中で特に意識する音はありますか?
Elle 細かいハイハットは入ってたほうが絶対Elleっぽいなって思う。例えばアルバムの「on my Side」は(海外で制作したあと)日本に帰ってきてからハイハットを足したんですよ。ローキーなゆったりしたサウンドですけど、ハイハットを入れて少し尖らせていて。
──ハイハットはどのくらい刻むんですか?
Elle 16ビートかな。チチチチチチチチみたいな(笑)。
──それはElleさんのこだわりですか?
Elle 地元にいるNever Childというプロデューサーといつも一緒に曲を作るんですけど、その人が絶対入れるんですよ。だから入ってたほうがElleっぽい。それに自分の声はめっちゃサベージ(すごい)とかでもないから、軽くて明るい曲だったらよりハイハットやベース音がブンブン入ってたほうがイイって思います。
──その一方で、「flex flex Ft. Bossman JP」はスロウなビートでメロディの音数もすごくシンプルにしている印象を受けました。
Elle この曲は、自分が作ったのはリリックの部分で、メロディはカーディ・Bやバッド・ベイビーの曲を書いているLondon Jaeが作ってくれてます。……すごすぎてヤバイ。
──「on my Side」や「Pancake」といった歌モノ系ではエモーショナルに歌う姿が印象的ですが、ラップとは違った魅せ方をという意識もありましたか?
Elle いや、逆にちゃんとラップをしたことってたぶんなくて、全部語尾にちょっとメロディをつけがちかも。だから最近はちゃんとラップに挑戦したいなって思ってます。日本人のヘッズたちをギャフンと言わせてやらないとな、みたいな(笑)。
──良い心意気ですね。歌い方は自分で決めてるんですか?
Elle そうですね。「I can’t feel it」は、録り直した当時に遊んでたラッパーの男の子に影響され過ぎて、他とは違う歌い方でちょっと裏声を入れ過ぎてる。まあ、Elleはすぐ影響受けるから。
──良いじゃないですか。
Elle でも今はまた戻ってる(笑)。この曲はうまく歌おうとし過ぎたかも。でもそれはそれでいいかな。思い出だし。
──いつもレコーディングは何テイクか録るんですか?
Elle 何テイクか録りますけど、大体1テイク目がいいからそれにしちゃいます。被せも全然しないです。
──つるっと録るんですか?
Elle ガヤやアドリブはパンチインで入れたりもしますけど、何個もレイヤーで重ねてっていうのはしないです。「bby girlll」は例外的にいろんなレイヤーを重ねてるけど、基本的には1本ですね。
──最もレコーディングを重ねた曲はどれですか?
Elle 「maybe love u」かな。声が高すぎてきっと今は出ないなぁ。この前、この曲のYouTubeを見ながら歌ってたらママに「めちゃくちゃ音痴じゃん」って言われて(笑)。だからこの曲をライブでやるのは本当にスペシャル(な喉の状態)じゃないと。
──ボイトレはやってるんですか?
Elle やってないです。なんですけど、ライブでオートチューンを入れたりっていうのはやらないんですよ。ギンギンし過ぎて逆に変かなって思って。まあボイトレもやりたいなとは思うけど、タイミングがあったらかな。なんか、自分のヘタなところも好きなんですよ。うま過ぎないっていうのが。
──オフィシャルのインタビューで言っていた「ヘタうま」という表現を思い出しました。
Elle そう。トラップミュージック好きの友達にも言われるんですけど、「Elleってちゃんと歌わないから良いよね」って。マジわかってるなと思います。遊びのニュアンスも合わせ持つというか、完璧過ぎると作られたもの過ぎて……
──逆に共感しない?
Elle そうそう! 例えばElleが聴いてるHIPHOPのアーティストは逆にハズしたりする人が多いし、それこそLil Keedはしゃべってる感じでラップするし。遊び心だったり、ありのままでやるところがすごくいいなって思う。
──そのLil Keedさんとはアルバムの「Wifey (Feat. Lil Keed)」でコラボされていますが、海外のアーティストとの楽曲制作はどんなふうに進めていったんですか?
Elle 実はミュージックビデオを撮りに行くまで会ったことはなくて、それまでマネージャーさん同士が連絡を取り合ってくれてました。
──歌録りも別々だったんですか?
Elle 別々です。Keedから送られてきたヴァースを初めて聴いたときはテンション上がりました。Elleは1年前にエイベックスと契約したけど、それまではずっとインディペンデントでやっていて。そもそもElleがイケてなかったらコラボしてくれなかっただろうし、本当に嬉しかった。ElleはずっとUSかぶれって言われてたけど、純粋にUSのサウンドや音楽が好きだったから、初めて夢が叶った瞬間で。
──リリックの世界観に関して事前に意見交換は?
Elle それはなくて、Keedが合わせてくれました。というのもElleが3年前にもう録っていて、その1年後ぐらいにKeedが入れてくれた感じだったので。
──ミュージックビデオを撮影した矢先、Lil Keedさんの訃報というあまりにもショッキングなニュースが発表されました。Lil Keedさんの遺作にもなった「Wifey (Feat. Lil Keed)」に対して、今はどんな気持ちがありますか?
Elle 複雑な気持ちです。Keedと一緒に作品を作れたことは心から嬉しくて、でもこの曲で人生が変わるとかっていうことはきっとないと思います。けどやっぱり……本当に悲しい。ライブももしかしたら一緒にできたかもしれないけど、できないし。うん、たぶんこの(複雑な)気持ちはずっと変わらないと思う。
──7月8日にリリースされたばかりですが、海を越えて届いていくことを願っています。
Elle そうですね。ありがとうございます。