取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
路上ライブをアンプラグドでやっていた頃は自分の響き勝負
──オーディション合格後のレッスンでは、ヴォイストレーニングもありましたか?
にしな あったんですけど、1講座1時間完結のレッスンが何回かあるような入門編だったので、1時間ぐらい声の出し方の練習をやったぐらいだったと思います。
──ライブ活動を始めたのは、そのレッスンが終了してからでしたか?
にしな そうです。
──ライブをする中で自分で声を聴き返しながら、表現を模索していったのでしょうか。
にしな そうですね。なんでこんなに歌いづらいんだろう?と思っていました。一時期、路上ライブをアンプラグドでやっていた頃は身軽に動ける良さもありながら、自分の響き勝負みたいなところがあって、気持ちの面でも身体を鳴らすという意味でも良い経験になったと思います。
──路上ライブでは立って歌っていましたか?
にしな 立っていましたね。
──路上ライブをする中で、声が届く範囲がだんだんと広がっていく感覚はありましたか?
にしな 私はなるべく響きが良いところを選んでいたので、アンプラグドだけどちゃんと共鳴しやすかったと思います。だから最初からそれなりに良い響きではあるんですけど、回数を重ねるうちに、より広がる感覚がありました。
──コブクロのお二人も路上ライブをやってきていますよね。
にしな やっぱり、ストリートから出てきた人はすごく強いイメージがあります。気持ちの面でもそうですし、路上で歌って人を集められるってすごいことじゃないですか。そういうリスペクトがありますね。
──路上ライブをやって、精神面も鍛えられたと感じる部分はありますか?
にしな ありますね。知らない子が歌っていても、立ち止まってくれる人のほうが少ないので。それでもめげずにやり続けることだったり、現実を知ったり。その現実を受け入れたうえで好きな気持ちや、頑張ろうって気持ちを持つという意味では、大きく心は鍛えられている気がします。
──今のにしなさんの歌の土台ができたと感じたタイミングはありましたか?
にしな 全然ないですね。逆に、未完成感がずっとあります。
──にしなさんが心動かされてきた歌を歌う人たちが、共通して持っているものはどんなものでしょうか。
にしな 一番は自分の良いところを伸ばしている人ですね。うまいこともすごく大切だと思うんですけど、“うまい”の上にはきっと無数にまだまだ人がいると思うので、その人の歌を歌っているかどうか。声も、歌い方も、曲の捉え方も、その人らしさを大切にしている人に魅力を感じる気がします。
──にしなさん自身が歌い始めてから、どうありたいかを考えることはありましたか?
にしな 歌い始めて、楽曲のリリースを始めるときはすごく考えました。それは曲を書き続けるうえで、“こういう世界感のアーティスト”って決まっているほうが、作家として良い距離感で曲を書き続けられるのかなと。
──それはどんなアーティスト像でしたか?
にしな 程よくわからない部分があって、ちゃんと少女だけど大人な部分が出せる人。着飾りすぎず、ちょっとやさぐれていてもいいかなと思ったりしていました。
──自然と自分を客観視するようになっていったのでしょうか。
にしな そうですね。でも今は逆に、これを仕事にしていきたいんだったら自分が苦しくない形をとるのが一番だなと思っていて。こういうアーティストであるべきだと考えすぎて自分を縛って、苦しくなったことがあったので。今はナチュラルでいようって気持ちです。
──にしなさんはオーディション合格後、周りの意見に流されないように身近な人には活動のことを話さなかったというエピソードもある中で、刺激的な歌詞も印象的です。
にしな 自分のことを書いてるようで、書いてないことも多いんです。刺激って、いい意味で残りやすいじゃないですか。だから自分と重なっていても重なっていなくても、これを書くことが人目を気にしてはばかられるなというよりも、いい意味でやみつきになったらいいなという気持ちのほうが強いです。