取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
撮影:松井伴実
アイドルかどうか決めるのは見ている人たち
──「ハウリング」は繊細で儚い表現が印象的です。この曲はフィーリングを大切にしているのでしょうか。
宮本 フィーリングですね。こういう曲は“振り付けです”っていうふうに見えちゃいけないから、あんまり考え過ぎないで自分の心が赴くままに表現しました。ダンスもコンテンポラリーっぽいので、固め過ぎちゃいけないと思いましたね。
──「ハウリング」を最初に聴いたとき、“ここがキーポイントだ”と感じた部分はありますか?
宮本 マイナスな言葉を連呼する曲って少ないんですけど、この曲はサビで《きらい きらい》ってずっと言ってるんです。それがただのマイナスじゃなくて、もがいている中で“でも、きらいじゃないんだよね”って感情を伝えられるようにしたいと思いました。
──楽曲を汲み取って表現しようという姿勢が、多彩な歌表現につながっているように思うのですが、楽曲の解釈についてはどのように考えていますか?
宮本 楽曲の意味を理解しきったほうがいい曲と、フィーリングを大事にしたほうがいい曲があると思っています。大体こんな意味だろうけど、これって意味ある? みたいな曲もあるじゃないですか。その他にも、意味はあるし伝えたいこともあるんだけど、歌詞ではハッキリさせていない曲もある。そういう場合は、表現で補完しようという気持ちでやっています。
あとは、今日が誰かの卒業コンサートなのか、自分のライブなのか、ライブの中の曲の流れや歌う環境によっても変わると思うんです。私は“この曲はこういうパフォーマンスで、こういう感情で歌う曲だからアンコールでは歌いません”と思いたくなくて。柔軟になれる考えを持ちつつ、自分でも納得がいくようにしたいと思っています。
──同じ楽曲でもライブの場面によって表現が変わると。
宮本 感情の部分が変わります。例えば、Juice=Juiceで言うと「未来へ、さあ走り出せ!」とか。ライブの始まりでも終わりでもいい曲ってあると思うんです。ライブの最初にやるならキメキメで笑顔を出し過ぎるよりカッコつけてたほうがいいけど、最後の曲なら“みんなで未来に行こう”、“Juice=Juiceの未来をこれからも応援してね”って気持ちでいたい。そういう感情の変化があります。
そのためには表現を変えないといけないし、流れに任せ過ぎると今度は表現が飛んでいって伝わらない歌になったりするから、そこを考えるようにしていますね。
──バランス感覚や、臨機応変なところが宮本さんの軸にありますね。
宮本 アーティストのみなさんはこだわりが強い方もとても多いし、こういうステージや環境では歌わないとか、そういうことを決めていくのも大事だと思うんです。
でも私は自分で曲を作っているわけではなくて、いただいた曲を自分なりに解釈して表現する人間なので、こだわり過ぎてもしょうがない。その曲を一番生かせなきゃいけないだけなので、あんまり自分のものだと思っちゃいけないと思ってるんですね。だから、臨機応変でいなきゃいけない。
──どんな場面でも表現できる人でありたいという思いもありますか?
宮本 やっぱりアイドルをやってきて卒業して、今もこうしてアイドルと同じような活動をさせてもらっているので、あんまり選択肢を狭めたくないんです。今はアイドルという枠組みから卒業したので、“アイドルです”って大っぴらに言うわけじゃないんですけど。
自分のこだわりを強くし過ぎて、できることができなくなっちゃう環境にはなりたくないし、第一は自分の歌をなるべく多くの人に聴いてもらうことだと思うので、そのこだわりで聴いてもらう機会を減らしてしまうのはイヤだなって。臨機応変にどんなときでも、どんな場所でも対応できるようにと思っています。
──アイドルグループから卒業し、2ndシングルをリリースした今の宮本さんのソロ活動がアイドル歌手なのか、アーティストという認識に切り替わってきているのかが気になっていました。
宮本 “卒業したからもうアイドルじゃないのでアイドルって言わないでください”って人もたぶんいるんです。その人はそのこだわりを持っている人なので大事にしていいと思うんですけど、私はアイドルを卒業したくてアイドルを辞めたわけじゃないんですよ。
ハロプロを卒業して活動する中で、ハロー!プロジェクトの存在やアイドルという肩書きはすごく大きいものだと感じます。今は現役じゃないって言い方をされるのも仕方ないと思う。でも、私の中でアイドルを否定する気もないし、“あなたはアイドルですよね”と言われたときに、ハロー!プロジェクトじゃなくなっているから100%アイドルとは言わないですけど、アイドルじゃないと言い切るつもりもないんです。
“アイドルかどうかを決めるのは見ている人たちだと思ってるから、見たいように私を見てください。私はみんなが求めている私でありたいので、そんなに凝り固まらないでくださいね”って思っています。
──アイドルとは何なのか、多様な考え方がありますね。
宮本 アイドルは、未完成で何かを目標としている姿を応援する部分もあると思うんです。私自身も、大きなステージに立ちたいという目標を応援していただいている気持ちもあります。だけどアイドルと違う部分は、未完成ではいけないということです。
アイドルを卒業して、アーティストとアイドルの狭間にいるような自分だからこそ、間違っちゃってもいいとは思わない。未完成でも、うまくいかなくてもいいよねっていう、そのアイドル感はいらないかなって。そこは捨てて、今頑張っていかなきゃいけないと思ってます。
──アイドルにもいろんな形がある中で、宮本さんは一貫して歌心が強く、枠組みにとらわれずとも“アイドル歌手”の素晴らしさを体現していると思います。歌うことに関しては、どのような考えを持っていますか?
宮本 そこはつんくさんの言葉の中にあります。“Juice=Juiceのみならず、ハロー!プロジェクトにアイドルはいらない”、“アイドルになりたい子をこのグループに入れたいわけじゃない”と言っている時期があって。たぶんそれはずっと変わらなかったと思うんですけど、その言葉はすごく心に残っています。だから、もう勝手にそうなっちゃってますね。
“未完成でかわいいね”って言ってもらったとしても、それでいいんだって自分たちが思っちゃいけない。“自分たちは完成品として見せている”って感じがなきゃダメなんだと思ってましたね。私自身も小さい頃を今見ると未完成なんですけど、その当時の自分は“これが自分の中の完成だ”って言って見せてるので。そういう感情はずっと変わらないと思います。