【インタビュー】逹瑯(MUCC)、ソロ活動を通して見えたヴォーカリストとしての可能性と、ニューアルバム『新世界』で魅せた進化の形

取材・文:後藤 寛子
ライヴ写真:冨田 味我

2022年5月3日に結成25周年を迎えたMUCC。昨年オリジナルメンバーであるSATOち(d)の脱退を経て新体制となっただけでなく、逹瑯(vo)が初のソロ活動を開始し、ミヤ(g)がDIR EN GREYの京(vo)、L’Arc-en-Cielのyukihiro(d)らと結成したPetit Brabanconでリリースを行なうなど、新たな刺激の中でニューアルバム『新世界』が完成した。

「星に願いを」というタイトルに反してヘヴィなサウンドで幕を開け、歌謡曲やニューウェイブ、ヒップホップなど、これまで以上にさまざまなジャンルやトレンドを自在に取り込んだ極彩色な世界が広がっている。それらの楽曲を多彩な表現で歌いこなすとともに、MUCCとしての芯を担っているのが逹瑯の歌声だ。唯一無二の存在感を放ちながらも、常に柔軟なスタイルで進化してきた彼の「歌」の核とは? ソロの経験で得たものや『新世界』に込めた想い、ヴォーカリストとしての独自のスタンスに迫った。

ソロ活動を踏まえて『新世界』では個人的に新しいことをちょこちょこやっている。

──まずはアルバム『新世界』が完成して、ご自身の手応えとしてはいかがですか?

逹瑯 曲作りして、作詞して、歌録りが終わった段階では、ちょっと聴かせる曲が多い大人っぽいアルバムになったなあと思ってたんですよ。でも、マスタリングが終わって聴いてみたら、普通に今までどおりのMUCCの新譜のイメージでした(笑)。やっぱり最初の何曲かにヘヴィな曲がガツンと並ぶと、そのイメージが強いから。中盤あたりにちょっとメロウな曲が並びつつ、結果的に激しい曲と聴かせる曲がバランス良くまとまったと思います。いつもよりはちょっと大人っぽいですけど、大人っぽ過ぎないバランスもいいなと。

──新体制で初めてアルバムを作るということで、制作前に“どんなアルバムにしよう?”みたいなイメージは湧いていましたか?

逹瑯 珍しく、曲出しの前に“今どんなモードなのか?”っていう話をみんなでしたんですよ。そしたら、今のライヴの環境もそうだし、超モッシュして暴れるエネルギッシュな感じよりは、曲を聴いて自然と身体が揺れるぐらいの、心地いいグルーヴ感の曲をやりたい気分ではあるよねっていうのが、けっこうメンバー間で一致してて。そういうイメージで曲を作っていこうか、という感じはありました。

で、そういう曲が揃ってくると、やっぱりもうちょっとパンチが欲しいなあってことで、リーダー(=ミヤ/g)から激しめの曲とか違うグルーヴの曲がどんどん出てきてまとまった感じです。個人的にも聴かせる感じ、ちょっと気持ちよくグルーヴに身を任せられる感じが最近のマイブームだったんですよ。日本の懐メロとかフォークとか、ちょっと湿度を感じるものがずっと好きだったんですけど、UKロックの湿度感とか何とも言えない暗さとかも好きなことに気づいて。そっちのほうを狙って作ってみようかなとか。

──曲作りへの向き合い方は、ソロ活動を始めてアルバム2枚を作った経験の影響も大きかったのでは?

逹瑯 今回のRECに関しては、すごく影響が大きかったですね。MUCCではいつもリーダーのジャッジで進むけど、ソロは自分でいろいろジャッジして進める作業だったので。あと、ドラマーがサポートになったので、“レコーディングの現場で伝えながら構築していくのはちょっとハードルが高いだろう”ということもあって、デモをもとにそれぞれがアレンジを加えて、“デモを作り直す”っていう作業を挟んだんですよ。そのデモの段階で、そのときにアレンジの方向性が決まったデモをサポートのメンバーに投げるという。

──デモの段階で、メロディとか、こういう歌い方をしようっていう方向性も固めていったと。

逹瑯 リーダーの曲の場合は、もともとのデモにリーダーの仮歌が入ってたりするんですけど、なんとなく歌い方のニュアンスも入れてくる人なので。それを汲み取りながら“こんな感じかな?”って。そこから、もっとこういう感じにしてほしいってディスカッションをしたり、ここは歌詞がついてからしっかりやろうとか。いつもより細かく何回かに分けて曲と向き合えたのが良かったなと思います。

──なるほど。改めてソロ活動を振り返るといかがですか?

逹瑯 面白かったですね。できることとできないことがすごくわかったというか。第三者に冷静にジャッジしてもらうことも、自分で我を通すことも、両方いいところがあるなあと思いました。

ソロライヴのステージから

──まさにそれが結実した2枚のソロアルバムでしたよね。自作曲のみの『=(equal)』と、提供曲のみの『非科学方程式』という。

逹瑯 この25年間、メンバー以外の曲を自分の曲として歌ったことはなかったし、この人の曲好きだなと思う人や仲間が周りにたくさんいるので、ソロをやるんだったらお願いしたいなと思ってたんですよ。でも、ソロ一発目が提供曲だけだと“自分の曲は?”って感じもするし、例えば1枚目が自分のアルバム、2枚目が提供曲のアルバムっていうのもあんまりパンチがないなあと思って。大変だけど、対になってるアルバム2枚が出たほうが面白いじゃないですか。何が一番面白いのかしか考えてなかった(笑)。

──特に、提供曲は錚々たる作曲家から客観的に逹瑯さんというヴォーカリストに当てて書かれた曲だと思うんですが、制作のやり取りの中で気付きはありました?

逹瑯 意外とミドルテンポの曲を歌ったときにいいところが出るって思われてるんだなと感じました。シャウトとか激しい曲は全然なくて、歌ものメインになったので。お願いするときは、“俺にこういう曲歌わせたら合うんじゃないかっていう曲をお願いします”ということしか投げてなくて、全部お任せだったんですけど、それぞれの解釈でトライしてくれたのが伝わってきて面白かったです。

───具体的にヴォーカリストとして何か新しく得たものはありました?

逹瑯 新しいものっていうか、やっぱり苦手なものは苦手だな、得意なところは得意だなってって再確認した感じかなあ(笑)。そもそもソロで動き出すこと自体が新しい挑戦だったし、とにかく自分ができることを全部出していこうと思って向き合ったので。その経験を踏まえて、今回のMUCCの『新世界』のほうが個人的に新しいことをちょこちょこやってるかもしれないです。

──たしかに、『新世界』では歌の表現の幅がさらに拡がった印象がありました。1曲目「星に願いを」から、今までのMUCCのヘヴィさとも少し質感が違うというか。

逹瑯 曲がすごく鬱蒼としてたから、その空気感に重過ぎるテイストで歌詞を乗せちゃうと沈み過ぎるなと思って。昔だったら、たぶんそんな歌詞にしてたと思うんですけど、この年齢になると遊びを入れるようになったというか。まずタイトルを見たときと曲を聴いたときのギャップも狙いたかったし、ちょっと皮肉交じりの遊びも入れつつ、「いきとし」の対になるようなイメージで書きました。今の世界情勢を反映するにしても、少し俯瞰で見るような、リアルに感じてないようなこの日本の感じを出したかったんです。

「星に願いを」ミュージックビデオ

──歌に関しても、これまでのヘヴィな曲のときとはまた違うアプローチですよね。

逹瑯 そうですね、シャウトもローを効かせる感じじゃなく、ちょっとハイで、喉の奥のほうに引っ掛ける感じ。ちょっとギャンっていう感じのシャウトにしてみたりしました。いわゆるグロウルに近いような声よりも、そっちのほうがいいなあと思って。

──「パーフェクトサークル」もサウンドはヘヴィですけど、すごくいろんな歌い方が登場していて。

逹瑯 こういう曲はけっこうラフに歌えるんですよね。曲調もゆるいし、遊べる余白が多いから。リズムに乗ってふくよかに歌ったり、ルーズに当てたほうがカッコいい曲でもあるし。意外と得意分野かもしれないですね。

──いろんな声を出そうとしているんじゃなくて、ノリで生まれてくると。

逹瑯 “ここはこう歌って”っていうのを細かく頭で考えると、固くなっちゃうと思うんですよね。歌詞とかリズムに委ねて、そのとき、そのときで気持ちいい声を出して歌ってるだけなので、あんまり頭では考えてないです。 “その瞬間にどの感じをチョイスするか?”っていう。ライヴでも、前回のライヴではこんな感じだったけど、今日の感じはこっちだな、みたいに遊べる曲だと思う。

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