取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
香水を嗅いだような、 “匂い”みたいなものをイメージしながら歌う
──もう1曲の「グッドラック」は弾き語りで、TOMOOさんの深みのある歌声と言葉が心の奥底にグッと届いてきます。2曲で異なる歌い方をされているように感じますが、「グッドラック」はどんなふうに歌おうと思いましたか?
TOMOO 歌い方もすごく対照的なんですけど、「酔ひもせす」はわりとリズム感とか、それはアレンジしていただいてさらに強調された部分でもあるので、サウンドに合うように歌いたいっていうちょっと画期的な視点が強かったんです。でも「グッドラック」については、セリフに近い、しゃべっているのに近い心持ちでレコーディングのときも歌いました。もともと、活動を始めたばかりの、まだバンドサウンドにも慣れてなかった頃って、静かな曲が多くて。さらに遡ると歌い始める前の私は、中高の部活で演劇をやっていて、歌うよりも前にセリフを言ったりする体験のほうが先にあったんです。なので活動初期になればなるほど、“歌”って私にとっては、楽器とか洋楽のアーティストのようにワァーッと歌い上げるイメージでもなく、言葉をしゃべるのに近い感覚で。今はその歌い方も変わってきたんですけど、「グッドラック」については、自分の中に今も残っているその“セリフに近い気持ち”がちょっと多いですね。
──サビの《変わっても 変わらなくても〜》やサビ最後の《よい旅を》といった低い音を歌うTOMOOさんの歌声が胸に響いてくるのですが、“低い音で魅せる”というのはすごく技術がいると思うんです。歌う際に工夫してることや心がけてることはありますか?
TOMOO また演技の話にもなっちゃうんですけど、この音源をレコーディングをするときは、自分の中にないものというよりかは、やっぱり目の前に景色やそれを歌ってる対象がイメージできたときに声がそのままその仕様になる感覚があって。“今、自分はどのくらいの温度感なのかな”って、なんかこう……色とかがすごいイメージされるんですよね。だから、その部分を歌ってるときは、けっこう自分の中の性別がないというか、自分は演劇をやっていた頃に男役をやっていたんですけど、そのときの人格のような、それに近い感覚なんです。なおかつ、(胸の上の辺りに手を当てながら)この辺りにある、薄紫色のちょっとこう、少しだけあったかい空気……香水を嗅いだような、この辺りに来る“匂い”みたいなものをイメージしながら歌っていて。うまく伝えられてるかどうかわからないですけど……。でも、この辺りに太めに来る“香り”っていうのをイメージしながら声を出していて、歌を入れるときは特にそういうのを意識するんですよね。
──そういうイメージはもともと自然とできていた感覚でしたか? それとも、歌い続ける中でだんだんと身につけていきましたか?
TOMOO 心から歌えているときって、歌い始めた10代の頃も、景色とか温度感とかの感覚と身体が実際に一致しているみたいな状態はたまにはあったんです。でも、10年近くの活動の中で、感覚の部分と身体から声を出すという物理的な部分の結びつきがだんだんと強くなっていって、“あのときこう歌えた”っていう記憶や経験が積み重なって、最近は10代のときよりパッとイメージできるようになってきた感覚があります。
──なるほど。歌い続ける中で、声の表現を模索した時期はありましたか?
TOMOO この3、4年はけっこう模索中で。「酔ひもせす」が「グッドラック」に比べてガーリーな曲なので、レコーディングのときも、もっと声を高くやろうかなとも思ったんですよね。ただ今回は、あえてそこまでやらなかったんです。でもガーリーな雰囲気が強めな曲では、歌う空間のイメージをちょっと薄くて軽めの位置に持ってきて、ちょっとキュルッとした感じで、もうちょっと女の子らしく聴こえるような歌い回しと声の太さでやってることも多いです。だから近年リリースした、例えば「恋する10秒」だったり「HONEY BOY」は、聴いてくださる方がその違いを感じていただいているかはわからないんですけど……歌う位置を意識してます。位置って言ってもイメージ上になっちゃうんですけど、胸を響かせるイメージなのか、もっと口角が上がってる感じで、おでこや後頭部の辺りを重点的に使ってるイメージなのかでけっこう変えてますね。でも、(後者の歌い方だと)やっぱりちょっと音が薄くなるので、「酔ひもせす」ではエネルギッシュさが欲しかったのもあって、あえてあんまりガーリーじゃないアプローチにしました。という具合に、最近よく試行錯誤してるんです。