取材・文:鈴木 瑞穂(Vocal Magazine Web)
撮影:HayachiN
今回のアルバムでようやく、純粋に歌が好きだったときの自分の感覚を取り戻せた。
──どのあたりから自分の歌い方と、SCANDALのサウンドがしっくりきたと感じ始めました?
HARUNA うーん。でも正直、今が一番しっくりきてると思います。なんだかんだずっと葛藤しながら歌い続けてきて、どれが一番自分らしいんだろうと思いながらの活動だったので、今回のアルバムを作れて、改めてしっくりくる自分に出会えたなって、すごく安心した気持ちがあるんです。
──ニュー・アルバム『MIRROR』は、“バンドスタイルのSCANDAL”というイメージ以上に、それぞれの“ありのままの今”が詰め込まれた自然体な作品集のように感じました。どのような心境の変化があったんですか?
HARUNA 「eternal」ができてからアルバムの制作がスタートしたんですけど、コロナ禍でライブの中止や延期が続いたことで自分たちの心も閉鎖的になって、制作自体がストップしてしまった時期があったんです。でもそれがあったおかげで結成15周年という年に、自分たちがどういうバンドなのかについて、今一度向き合うことができました。
特に今年は全員30代になって、15年という長い期間を一緒に過ごしてきた中で、ここからどんな音楽をやっていくべきかとか、30代の女性のリアルとしてどんな曲調が今の自分たちに合っているのかを改めて考えたんですよね。
──そういった心境の変化の中、歌へはどのように向き合っていきましたか?
HARUNA 今回は以前と比べて、歌に関しての意識はけっこう変わった部分がありました。今まではそれこそ10曲入っていたら10通りの歌い方で、曲ごとに違う人になりきって演技するような感覚で歌いたかったんですよね。でも、今回は自分自身と向き合ったり、バンドと向き合った時間がたくさんあったので、ちゃんとひとりの人間として全曲表現しようという想いで歌いました。だから今までみたいな、パワフルな歌い方は少なくなってるなって思うんですけど。今の33歳のひとりの女性としての歌い方が詰まっているなと思います。
──新しいチャレンジですね。
HARUNA 今までは新しいチャレンジをするのにも少し抵抗があって。あえてわざとらしく違う歌い方をするのってどうなんだろうと意地になっていた部分もあったんです。でも今は単純に、また歌うことが楽しくなってきたというのが本音かもしれないです。自分が“今までと違う表現をする”という自分のこともまた好きになれたアルバムだったなと思います。
スクールに通い始めた頃って歌に対して悩んだこともなかったし、純粋に歌うのが楽しかったんです。でもやっぱりプロになると、人からの評価や、自分で自分の歌を聴いて「もっとこうすればよかった」と変に考えてしまうことも多くて、すごく不健康だったなと思います。このコロナ禍でのアルバム制作でようやく、純粋に歌が好きだったときの自分の感覚を取り戻してこれました。続けきてやっと今があると思うので、本当に辞めなくてよかったなって改めて思うんです。
「eternal」では新しいレコーディングスタイルに挑戦。自分だけのこだわりを歌に詰め込むことができた。
──1曲目の「MIRROR」をアルバムのタイトルに持ってきたのはどんな想いがあったんですか?
HARUNA アルバムのタイトルは最後の最後まで決まっていなくて、この曲も実は最後にできた曲なんです。最初はこれ以外の9曲でも今の自分たちとしてはいいんじゃないかって思ってました。でもコロナ禍の中で、立ち止まっていた時期もあったけど、そこから一歩抜け出せた自分たちが今言えることを曲にしようという想いに辿り着いて、この曲ができあがりました。
そうしてタイトルを考えたとき、自分自身ともバンドとも向き合って完成したアルバムだから『MIRROR』にしよう、じゃあこの曲のタイトルもそうしようという流れだったんですよね。
──アルバムの幕開けにふさわしい壮大なロックナンバーです。どんなイメージで歌唱アプローチしたのですか?
HARUNA こういう楽曲だと力強く歌ってしまいがちになるところを、アルバムのトーンに合わせてあえて抑えめにしました。全体的に丸さみたいなものを意識していたので、例えば2Bあとの《向かい合おうよ、今》は、もっと強く歌ったテイクもあったんですよ。でも強すぎないほうが今の自分たちっぽいなと思ってそっちを採用しました。バンドが盛り上がってくるところなので、今までだったらめちゃめちゃ強めに歌ってたと思うんですけど。
──「eternal」でも新しい試みをされたそうですね。
HARUNA レコーディングの仕方を今までと変えたんですよね。今までは4人でレコーディングスタジオに入って、全員で全員のレコーディングを見守る方法で10年以上やってきました。だからヴォーカルを録っている間もメンバー全員がいて、それぞれからアイディアや意見をもらうんです。でもこの曲は、私ひとりでアレンジャーのシライシ紗トリさんのスタジオを訪ねてレコーディングをしています。それぞれのセクションはそれぞれに任せる形をとってみたんですね。
自分だけで作り上げる良い緊張感だったり、自分だけのこだわりを詰め込めた新しいレコーディングスタイルだったなと思います。
──ひとりだと気兼ねなくトライできそうですね。
HARUNA もちろん皆がいてくれて、自分には持ってないような歌い回しのアドバイスをくれたり、すごく自分の幅が広がっていくんです。でも人がいるとやっぱり、“どうかなぁ?これっていいかなぁ?”ってすごく考えちゃうんですよ。なので、本当の自分の歌い方を考えるという意味でも、誰もいない空間でたくさん挑戦できたことは良かったですね。
──ココをこだわった!という箇所を教えてください。
HARUNA Aメロの歌い出しの息遣いは、意識的にこういう風に歌いたいなと、あえて喉を締めて声になるまでの「間」がしっかりマイクに乗せるように歌ってみました。
──歌詞の反復フレーズも印象的ですが、歌の展開としてはどのようなイメージを考えていましたか?
HARUNA 今までだったら全部同じアプローチにしてたなって思いますけど、ちょっとしくってもいいというか、気持ちが乗ってればいいやという気持ちになれて。例えばサビの反復フレーズ《この瞬間、永遠にして》の《しゅんかん〜》の語尾も同じところで止まってなくてもいい。前はなぜか全部同じように歌いたかったんですよ。でも別にそうじゃなくていいやって思えました、やっと。