インタビュー:田代 智衣里(Vocal Magazine Web)
30年歌い続ければ、74歳まで歌い続けてる小田さんの年齢になるわけですよ。できるかどうかはわからないですが、そうでありたいなとは思いますよね。
──この先、“何歳でこんな風に歌っていたい”というビジョンを思い描くことはありますか?
大橋 うーん、どうなんでしょうね。でもひとつ思うのは、毎年小田和正さんの音楽番組を手伝わせていただいているのですが、小田さんが今74歳なんですよね。小田さん74歳で、僕43歳なんですよ。単純にあと約30年歌い続ければ、74歳まで歌い続けている小田さんの年齢になるわけです。
ただ、単純に30年歌っただけで小田さんに追いつくわけじゃないんですよ。小田さんのあのパフォーマンスができるかどうかもわからなければ、あんなふうに声は出せないので。ただ、月日としてあと30年後に歌っている小田さんってすごいじゃないですか。
だからこれは、できるかどうかはわからないですが、そうでありたいなとは思いますよね。小田さんの歳まで自分も歌えるかなぁ……というのは、小田さんの近くにこうやって居させてもらうと、やっぱり感じたりはしますね。
──小田さんの歌について、吸収したいと思ったことはありますか?
大橋 それで言うと、小田さんはヴォイス・トレーニングに通ったことがないって。それを聞いて、自分は間違ってないって一番思った瞬間でしたね。
でも、小田さんと僕は全然タイプの違う歌い方なので。ただ、その年齢まで歌えるってことは、もうちゃんと自分の喉だけじゃなくて、肉体的にケアをされているんだろうなって思いますね。やっぱり走り込んだり鍛えたり、小田さんもされているみたいなので。じゃなきゃ無理だよなって思いますもんね。
──大橋さんも日常でそういうトレーニングはされているんですか?
大橋 してないですね(笑)。
──あははは(笑)。
大橋 まったくしてないですね(笑)。だから僕のはね、ほんとその、掲載してもらってもなんの役にも立たないと思いますよ(笑)。
──あはは(笑)。そんな大橋さんに憧れている人がたくさんいます。
大橋 いやーなんか、気持ちだけみたいな話で、最終的に。
──でも、気持ちが大切ということですよね。ライブやレコーディングに気持ちを持っていく、整えることはしますか?
大橋 それはしますね。その日にというよりは、“その曲を歌う瞬間にどういうマインドになろうかな”とか。もしかしたら、役者さんが役に入る時ってそういう感じなのかなって、ちょっと思ったりしますけど。
(レコーディングでも)最初のうちはマイクの特性だとか、自分の声の調子を確認するテイクなんですよ。だからテイク1・2・3っていうのは、ほぼ使うと思ってなくて。例えば4から使おうって自分で決めた時は、もうここでパフォーマンスがガラッと変わるので。だからシンタくんも、“あぁこっからだね”って。それはもう明らかに違うみたいで。
なんかもう、スイッチを入れるって感じですね。で、逆に言うとライブはスイッチを入れないようにしてるんですよ。
──ライブはスイッチを入れない?
大橋 はい。本番始まってSEが流れてそのあと登場するってなると、みんなステージ袖で待ってるじゃないですか。そこで僕、袖にはいないんですよね。袖にいると余計なこと考えて緊張するんで、とにかく楽屋のほうにいて。スタッフが“もう間に合わない”って呼びに来るんですけど、僕の体感としてはSEが終わった瞬間に袖からそのまま出ていきたいんで。だからそのタイミングを測ってですね。
──その時はひとりなんですね。
大橋 ひとりですね。ただみんなでこうやって(円陣)やりますよ。それが終わったら僕は楽屋に戻っていくんです。
──他のヴォーカリストでは、玉置浩二さんへのリスペクトについてもお話されていました。
大橋 玉置さんのライブはもうちょっと自分が歌えるようになってから行こうと思いながら、なかなかそうならなくて行けていないんです。それぐらい僕としてはすごいパワーのいることなんですよ、玉置さんの歌を生で聴くっていうことは。
『玉置浩二ショー』という番組に呼んでいただいた時に一緒に歌わせていただいたんですが、その時もすごく打ちのめされて。影響を受けているところは、表現ですね。テクニカルな部分で言うと、“どれだけ小さな声で歌えるか”ってところ。
──とても具体的で、難しいことですね。
大橋 小さな声で歌うことってめちゃくちゃ難しいんです。小さい声が出せるってことは、おっきい声を頑張らなくていいんですよ。だからもうほんとに消えちゃうぐらいの小さい声なんですけど。でも、芯がそこに通ってる歌っていうのは、玉置さんは本当にうまいです……っていうか、玉置さんにしかできないんだと思いますね。
僕も一生懸命マネしようと思って頑張るんですけど、まだ玉置さんより大きいと思いますね。だから歌って一見お腹から声出してってイメージがあるかもしれないんですけど、やっぱり喉も楽器なので。この喉でどれだけのダイナミクスをつけられるかっていうのが、一番大事なんじゃないかなって思っています。ちっちゃい声とおっきい声の振り幅、ダイナミクスを付けて。あとはやっぱり歌っていうのはリズムですよね。
リズムが悪い歌はやっぱりどうやっても気持ちよく聴こえてこない。だからたぶん歌い手って、けっこうヴォーカルあるあるでドラムが好きだったりするんですよね。自分の歌のタイミングとビートが合わないと、音楽的に成立しないので。僕もすごくドラムっていう楽器が好きですね。
──デモ音源をMDレコーダーで録っていた時には、ギターと声のバランスも距離や環境を整えることで調整されているとおっしゃっていました。最近はPro Toolsなどのコンピューターも使うことが増えているのですか?
大橋 僕がコンピューターをいじるっていうのはまだ全然やってなくて。Pro Toolsも、“ボイス・レコーダーでもいい”って思うような使い方ですね。今は携帯なんか特に、そんなに考えなくてもきれいにギターと歌の音量を合わせてくれるし。それこそコンプレッサーがいいんだと思うんですけど。
──今のデモ録音はスマートフォンを使うことが多いですか?
大橋 今は携帯が多いですね。ギターと歌だけとか、ピアノと歌だけとか。それをそのままシンタくんに聴かせて、こういう感じにしたいんだよねってイメージを伝えて……っていう作り方だから、あんまりMDの時と変わってないですね。
──歌詞はiPadを使って書かれていると。
大橋 そうですね、歌詞はiPad。でもiPadで歌を録る時もあります。録音機能があれば基本的にはなんでもいいんですけど、携帯のほうがすぐに取り出せたりするので。この瞬間を録音できるかっていうスピード感が僕はけっこう重要ですね。
だから例えばタイアップのオファーをいただいて打ち合わせ中に思いつくと、トイレに行くふりをしてトイレで録音したりしますね。忘れちゃうと思い出せないんですよ。中には“忘れちゃうようなメロディだったら大していいメロディじゃない”って全部捨てちゃうアーティストや作家さんもいるみたいですけど、僕は全部とりあえず録っておきたいんですよね。
──よくアイディアを思いついたり、デモを録りたくなるシチュエーションはありますか?
大橋 車に乗ってる時はよく思いつきましたね。音楽が流れているからだと思うんですけど、その刺激が。やっぱり僕らって何かをアウトプットしていく仕事なので、アウトプットしすぎてアイディアが枯渇しちゃうとインプットしたくなると思うんです。それが旅行に行って、例えば海辺の景色を見た瞬間にメロディが思い浮かぶ人もいるでしょうし、友達とごはん食べたり、お酒飲んだりしている時に思い浮かぶ人もいるでしょうし。
僕の場合は何かしらの芸術作品からもらうことが多くて。それが音楽じゃなくても映画でも、例えば絵とかでもいいかもしれないですし、創作意欲をかき立てられるものが芸術作品のことが多い。車は音楽が流れているので、車で思い浮かぶことが多かったんですよね。でも車の時って停めなきゃいけないんで、すごい矛盾してるんですよ、僕のスタイルとは(笑)。
──映画や絵は習慣的に観に行きますか?
大橋 観に行きますね。絵なんかはツアーで旅先の博物館に行ったりとか。映画は好きなんで無理やりっていうことでもなく、自然にこれ観たいなぁと思って行きます。絵も無理やり観ているわけではないですけど(笑)。自分から足を運ばないと、なかなか絵は観る機会がないので。
──ツアー中もインプットする時間を大切にされてるんですね。
大橋 そうですね。移動中に観る映画でもそうですし。それこそiPadで観られるじゃないですか。作品をとにかく自分の中に入れたい感じはありますね。
──iPadで歌詞を書く時は、メモのアプリを使っているんですか?
大橋 そう、メモですね。シンタくんと共有する時は2人で同じソフトを使っています。僕はちょっとそういうのが苦手なのでシンタくんがいつもセッティングするんですけど、僕がiPadで書くと、シンタくんの画面も変わるっていう。