【単独インタビュー】スキマスイッチ大橋卓弥が語るニュー・AL、ヴォーカリストとしてのビジョンと“届く歌”の核心

インタビュー:田代 智衣里(Vocal Magazine Web)

11月24日(水)、約3年半ぶりとなるオリジナル・アルバムを2枚同時リリースしたスキマスイッチ。『Hot Milk』は“今、求められているもの”を、『Bitter Coffee』は“今、メンバーが作りたいもの”をテーマに、コンセプト・オリジナル・アルバムが完成した。

このインタビュー直後、『Hot Milk』、『Bitter Coffee』を引っ提げた全国ツアー『スキマスイッチ TOUR 2022 “café au lait”』を開催することを発表し、精力的に活動する2人。今回は、スキマスイッチのヴォーカルである大橋卓弥の“歌”にフォーカスしたインタビューを実施。“届く歌”の核心、ヴォイス・トレーニングの必要性、ヴォーカリストとしてのビジョンを訊いた。

本当はマイクを使いたくないんですよ。マイクを通った時点で本当の声ではないので。

──『Hot Milk』の1曲目に収録された「OverDriver」のミュージック・ビデオは、アルバム発売前に先行公開されました。サビの《イッサイガッサイ》はラストだけ地声ですが、こうした歌唱アプローチは常田さん(真太郎:k)と話し合いながら決めるのですか?

大橋 そうです。それは確かシンタくんが“最後だけ地声で行くのどう?”って言ったんじゃなかったかな。僕は最初「行けない」って言ったんですけど(笑)。やってみたら行けそうだったので。ファルセットで出していたところを地声にすることで、主人公の意思がグッと前に出るようなイメージというか。強くメッセージを込めたい時に、ファルセットと地声を使い分けますね。

──『Hot Milk』の「東京」はフォークの要素が強く出ていて、大橋さんソロ作「少年と空」の歌唱に通ずるものを感じました。歌唱で意識したことや、影響を受けたものはありますか?

大橋 これはもう“拓郎さんの世界”というか……うちの父親が吉田拓郎さんのことを大好きで、小さい頃から僕も聴いていました。もう大尊敬する先輩ですけど。フォークって、聴くとみんなどこか心打たれたりするんじゃないかなと思っていて。「少年と空」の時も、そういうフォーク・ソングを自分も歌ってみたいなと思って作りましたね。

「東京」は『東京交差点』(テレビ東京/毎週火曜夜9時54分放送)のオープニング・テーマ書き下ろしのオファーをいただいたんですが、(制作)時間がなくて。このスパンで作るのは難しいのでお断りするしかないのかな……というタイミングだったんです。

時間がないのは先方さんもわかっていて、例えば15秒のサビだけ先に作り、その後に完成で構いませんということだったんですが、あとでパズルみたいに作っていくのもなぁ……って。だったら“15秒の曲を作ろう”と思ったんですよ。携帯のストップウォッチで15秒ってどのくらいの長さだろうと思ってやってみたら、一節ぐらいは歌える長さで。ギターがあったので、軽く弾きながら“こんな感じかな”ってシンタくんと話していた時に、もう原形が出てきていたんですよ。

──その時にフォークの要素が出ていたんですか。

大橋 なんとなくフォーキーなメロディだったので、だったら15秒の曲を作って、あとからこの15秒をくり返す曲にしたら辻褄が合っていいかもなって。それでこのオファーを受けさせてもらって、最初に頭の部分だけ作ったんです。

スタジオに入ってシンタくんと制作を進めていくうちに、もっとフォークに、拓郎さんみたいにしたいなって思って。“こんな感じでどう?”って崩して歌ったら、“あぁなんかカッコいいね”って。しかも僕らが思う東京ってすごい大都会。「東京」って言っているのにそこにいる自分たちはやっぱり田舎もんで。なんかフォークがすごく合うなと思って、このアプローチにしたんですよね。

──そうだったんですね。「東京」を聴いてどこか懐かしい気持ちになり、また「少年と空」を聴き返していました。

大橋 シンタくんもソロ活動の時に僕の「少年と空」を聴いて、“いい曲だね”って言ってくれました。やっぱりみんなフォーク好きなんですよね(笑)。

──『Bitter Coffee』の「SINK」では1Aの《この世界壊して もう》の《もう》に声の加工が入っているのが印象的です。新たな表現をという意識はありましたか?

大橋 今までなかったですよね。これはデモの段階でまだ歌詞がなくて《ラララ》で歌っている時に、シンタくんが遊び心でボコーダーの音でやったのを僕が気に入って、本ちゃんでも活かしたんです。

もともとやらなかったのは、僕、自分の声を変えられるのがあんまり好きじゃなくて。今はコンピューターの精度も上がって進化してきているので、きっと歌もコンピューターで直したりすることも多いと思いますし……まぁ、お客さんたちがそれをどこまで理解するかですよね。でも、それは読者の方々も、もう知っていることなんですかね?

──なんとなく知っているかもしれないですが、中には“力のある歌い手は直さない”と思っている人も多いかもしれないですよね。

大橋 あはは(笑)。そうですよね。僕、そこはすごく思うんですけど、もうどっちもあるなって。今や直してますよ、こういう曲にしたかったからこうしましたって。それは作者の表現でもあるじゃないですか。たぶんみんなが直して当然だとは思わないのは、歌手っていうのは歌がうまいから歌手になれたんだと。だからコンピューターで直すわけがないって、そこに繋がると思うんですけど。

今やそういう時代でもなくなってきているじゃないですか、そういう表現の仕方なので。それはそれでありだと思うんですけど、僕は歌がうまいやつが歌手になるべきだと思っているので、やっぱり直さないんですよ。ピッチを直すことはしないんですけど、テイクは選びます。それは音程が良いって時もあれば、表現としてこっちのほうが良かったなってこともあるからです。

そういうことがあって、今までボコーダーとかってあんまり使ってこなかったんですよね。それが今言ったように、“そういう表現の仕方もあるな”ってどこかで思えるようになってきたんだと思います。

──テイクの回数はどのくらいになることが多いですか?

大橋 平均して10本弱ですかね。やっぱり歌は最初から始まって終わりまでの流れがあると思うので、なるべくそれを崩したくなくて。だから10本ダーっと歌って、その中から良いのを選ぶっていう作り方ですね。

──エンジニアさんとのやり取りの中で、できるだけそのままの声を活かしたいという思いを伝えることはありますか?

大橋 コンプレッサーをかけてヴォーカルを録ることが多いと思うんですけど、僕は絶対にコンプをかけずに録るんです。当たり前ですけど、マイクって離れればちっちゃい声になるわけですよね。近付けば音が近くなる。コンプレッサーっていうのは、それをなくしちゃうので。そうすると僕は自分のマイキングができない。

ギターもそうじゃないですか。ちっちゃく鳴らしたい時はちっちゃく鳴らすように弾くわけですよ。大きい時はガーッとやるわけで。これをどんなことやっても一定の音量になるっていうのが、すごく違和感があって。だからそれをしないんです。

でも、初めてやるエンジニアさんにそれを言うと、すごく驚かれますね。だからたぶん一般的にはモニター上だけでもコンプをかけて録る人が多いんだと思うんですけど。その代わり、僕も録ったものをコンプレッサーやEQで整えたりはします。

──オーダーするのはどんなことですか?

大橋 尖った歌にしたい時は、録ったものに対して下を削ってちょっとハイ上がりな音にしたり。ただ、やっぱり音って録音されたものがあれば削ることはできても、ないものを広げるってなかなか難しい。なるべく“素の状態の自分の声、満タン”を録っておいて、下を削ったり、上を伸ばしたりって調整する感じですね。

──ライブの時にもマイクとの関係は同じように意識していますか?

大橋 しますね。なんて言うのかな、本当はマイクを使いたくないんですよ。マイクを通った時点で本当の声ではないので。でも、それは無理なのでマイクを使うしかないんですけど、なるべくマイクと自分のイメージを擦り合わせて選んだり、使ったりしますね。自分の思っている音じゃないもの、変わってしまうものはやっぱり使わないし。ライブも一緒ですね。

──今、マイクはどこのメーカーですか?

大橋 今、SHUREの「BETA58A」を使ってます。ワイヤレスのほうですけど。結局そこに戻ってきた感じですね。その前はオーディオテクニカだったかな。

──マイクの角度ではどんなことを意識していますか?

大橋 基本的には真っ直ぐ声を当てようとします。マイクを上向きには使わないで、自分の口に向けて使います。これはスタンドマイクの時も同じですね。

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