曲作りのテーマで不変だった「自分の心のコンパス」

──続いては、15年で感じる「歌うテーマ」の変化について。その時々で怒っていたり、悲しんでいたり、苦しんでいたりという時期があったと思いますけど、ずっと芯にあって変わらなかったものと、変化したかなと感じるものを聞かせてください。

高橋　変わらなかったものは自分の心のコンパスというか、自分が良いって思ったものを絶対に作るということ。「このくらいでいいか」っていうのをやらない。絶対に「この曲が人生最後の曲になってもいい」とか、逆に「この曲が自分のデビュー作になってもいいっていう曲だけ作る」というような想いはずっとあるから、そこは当時も今も変わってない。一方で変わったことは、「なるほど、そういうのもあるのか」という、わりと寛容な作り方が前よりは少しできるようになったかなと。例えばタイアップをいただいて、「こういう感じの曲で」とかってリファレンスをもらったりするじゃないですか。嫌だったですよ、昔。「じゃあ、リファレンスの曲の人に頼めばいいじゃん」と思うような性格だったんですけど、「じゃあ、思いっきりそのリファレンスっぽく作ってみよう」とか、「明るい曲でお願いします」と言われたら、「どんな感じに明るく？」っていうのをちゃんと聞いて。「高橋優さんの曲だったら、この曲っぽく」ってことなら、「それとテンポを一緒にしよう」とか、自分じゃない人たちのリクエストとか想いを、できるだけ自分の中に入れる作業みたいなのは、以前だったらちょっと怖くてやりたくなかったかもしれないですけど、今はそれがわりと楽しい。そこは、ちょっと変わったかなと思いますね。

──《歌おう》とか《歌う》って歌詞を新曲でもわりと使われていますけど、昔は《歌おう》っていう“レッツ”という感じがなかったというか、高橋さんは「発信する側」という感じでしたけど、「共有する」ことが増えてきているのかなと思いましたね。

高橋　ああ、確かにそうかもしれないですね。

──それはやっぱり路上で歌っていた頃って、「自分 vs 何か」の視点だったのが、もっと背負うものが自然と増えてきているのかなと感じました。

高橋　ライブでお客さんの顔を見させてもらっているのが大きいかもしれない。

──お客さんが一緒に歌ってくれる経験が増えていくわけですものね。ちなみに３枚組45曲ベスト盤の中で、当然入れなければならない曲、入れるべき曲は当然入っている。それ以外に高橋さんがどうしてもこだわって入れたという曲があれば教えてください。

高橋　そうですね、「美しい鳥」ですかね。

──スタッフの方が挙げた候補リストにはなかった？

高橋　いや今回ね、スタッフさんのリストとかないんです。本当にサラッと僕が入れたい曲だけ入っているんですよ。入れなきゃいけない曲も１曲もなかったんです。

──そうなんですね。

高橋　まあ新曲ぐらいのもので。実はここ４〜５年で出した曲で、タイアップまでいただいて配信シングルにしたものも、けっこう入ってないんです。

──それは曲ごとの好みなんですか？　それともアルバムとして完成形を想像したものが優先されたんですか？

高橋　ライブ意識ですかね。「この15年」っていうと、やっぱりアニバーサリーで寄せ集め、掻き集めみたいなCDって思われるのかもしれないけど、僕からするとこのアルバムは、自分の「最新アルバム」として出したいと思ってるんですね。となれば、攻めのセットリストというか、間違いなくライブでやったらみんなでワーッと盛り上がれる曲をまず選定していきたい、というふうになっていってて。そういう選び方なんですよ。だからライブで盛り上がって聴きたい曲とか、今ライブで届けたい曲とか。もちろん選ぶ中で、どうしても75分のCDのディスクに入らなくて泣く泣く選んだけど入れなかったのもあるんですけど。でも、選りすぐりの高橋 優セレクトです。

──では、このアルバムを引っ提げたツアーを考えるとすると、ふたつ、３つのセットリストもできると思うのですが、それも描かれている？

高橋　セットリストはもう決まってます、だいたい。リハも入ってます。

──言える範囲でいいのですが、セットリストは２セットくらいありそう……？

高橋　大きくは１セットですけど、日替わりっていうか、２デイズ然り、地方でも久しぶりに行く地域とか、初めてやる会場とか、よく行かせてもらっている場所とか、それぞれあると思うんですけど、そこでけっこう変えます。

──それは考えるのも楽しみでしょうし、聴くほうはさらに楽しみですね。ところで、もう15年ですか？　まだ15年ですか？

高橋　なんだろう、どっちも思ってないなあ。けっこうみんな言うじゃないですか、「もう30（歳）だ、もう40（歳）だ」とか。僕もそれが笑いになるなら言いたいんですけど、15年やってきたぜ、みたいな自負もそんなにないし。どちらかと言うとこういうのって、自分の誕生日を祝ってもらっているような感覚にちょっと近いんです。「ハッピーバースデー！」と言われて、「俺、今日ハッピーバースデー！」って、そんなに言わなくないですか（笑）？　言ってもらってるから「ありがとう」ということで、「じゃあ今日みんなでメシでも行くか」って感覚があるじゃないですか。「今日は俺に奢らせてよ」みたいな、そういう感覚に近くて。こういうアニバーサリーみたいなのは、ちょっと“僕発信”というよりは、僕を取り囲んでくれてる人たちみんなでの発信みたいな気持ちなんですよね。それは、ありがたいはありがたいんですけど。だからまだ15年かと思ってないし、どっちでもないな……。ただ、だんだん元気になってくるなと思います、自分が。どんどん。15年前よりも今のほうが健康だと思います。