取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)
ヒットする声を作るんじゃなくて、その人にしかない宝物を探したい
──ヴォイストレーニングに興味を持ったきっかけはありますか?
クリス 日本に来てたまたまコブクロさんやいきものがかりさんが出てるテレビ番組を観たときに、(歌を聴いて)泣いてる方がずっと映っていたんです。なんで泣いてるのか、そのスキルはどうしたら身につくのかがすごく気になって。ヴォイストレーニングの先生に相談したら、まずは表現力をアップしなきゃいけないと。“ベースのスキルを身につけてから、さらにこういうことができればもっとうまく自分の伝えたいことが伝えられるよ”と言われて、そこから始まったんです。
──デビューのきっかけになった『のどじまん ザ!ワールド』に出演したときは、すでにヴォイストレーニングをやっていましたか?
クリス はい。2〜3年ぐらいやっていました。
──基礎練習をやると、歌いたい曲も変わりますか?
クリス もともと歌えなかった曲が急に簡単に歌えるようになるので、歌いたい曲も変わります。ポップスをバラードメインで歌っているクリス・ハートは、全部ヴォイストレーニングの影響です。
「I LOVE YOU」も高音をずっと使っている曲で、昔は絶対に歌えなかった。レッスンでどこまで高音を出せるか、出せないときはどうすればいいか、うまく出せない音でもどうやったらうまく表現できるかがわかったので、すごく力になりました。
──「I LOVE YOU」の楽曲が生まれることにも繋がっているのですか?
クリス そうですね。「I LOVE YOU」はデビュー前にレコーディングした曲なんです。デビュー前のデモの中にあったのは、「home」、「たしかなこと」、「旅立つ日」、そしてオリジナルは「I LOVE YOU」だけでした。その中の3曲を1日でコーディングしたんですけど、「I LOVE YOU」が一番最後で、これがちょっと疲れちゃって。
“本当にうまく歌えるかな”って緊張や不安もあったけど、自分らしい声を出してるし、失恋の曲には逆に疲れてる声が合うんじゃないかとプロデューサーと話したんです。ちょっと泣いたあとみたいな感じの歌い方でレコーディングしたんですけど、そのときにもトレーニングしていてよかったなと思いましたね。デビュー後のスケジュールもすごく忙しかったから、スキルがなかったらたぶんすぐに喉がダメになっていたと思います。
──「I LOVE YOU」は音域が広く、難易度も高い曲だと思うのですが、ヴォイストレーニングをして得た力を最大限に活かせる曲にしたいという思いもあったのでしょうか。
クリス あの曲をレコーディングするときは、ヴォイストレーニングの影響でどこまで高音を出せるか、どこがベストなのかも全部わかっている状態でした。デモをいただいたときは女性アーティスト向けの曲だったんですけど、この内容は男性だけの曲にしたくなかった。男性でも女性でも共感できる曲にしたいと思って、キー設定も少し高い音をキープして、ファルセットを使うことにしました。
当時は平井堅さん以外にそういうイメージで歌ってる人がいなかったんです。僕の声だと、このキーじゃないと男らしさがありすぎて強く聴こえちゃうので、弱さがほしいと思って。高くてちょっと枯れた声で歌ったのがすごく合っていて、よかったと思います。
──ヴォイストレーニングが大きなきっかけにもなっていたんですね。
クリス ヴォイストレーニングがなかったら、今までのカバー曲もオリジナル曲もたぶん歌えなかった。自分の声のことがわかるようになったから、何があっても歌えると信じられます。ただ、どう歌いたいか、何を伝えたいかを考えられるようになりました。
──ヴォイストレーニングをすることで、自分の声への理解も深まりますか?
クリス 自分は歌手として、アーティストとして何があるのか、何が特別なのか、何を伝えたいのか。それを理解するために、トレーニングをやったほうがいいと思います。ボイトレの先生によっていろんなやり方があると思うけど、僕はヒットする声を作るんじゃなくて、その人にしかない宝物を探したいと思っています。