開演予定時刻の17時を回り、ネオンサイン風の公演ロゴを背景にしたバーカウンターのステージセットでは、雨のSEに続いてスウィングジャズのBGMが聴こえてくる。そのステージ中央にライトが当たり姿を浮かび上がらせるのは、バーテンダーに扮しシェイカーを振るTOSHIMITSUである。tatsu（g）、松田貴志（b／バンマス）、越前谷直樹（k）、ICCHAN.（d）、というバンドメンバーによる演奏の中で、さっそく“お前に会いにきたぞーっっ!!”と昂った声を放ち、一際大きな歓声を浴びてライブは幕を開けた。

　TOSHIMITSUはオリジナル楽曲の作詞・作曲を手がけるシンガーソングライターだが、まずは川谷絵音の楽曲提供（唯一の外部ソングライターによる楽曲）による舞い上がるロックチューン「僕らの鳥」でスタート。スタンドマイクを通して放たれる、耳に心地よいテナーヴォーカルが上昇線を描き、２コーラス目では視界一杯のハンドクラップを誘う。鮮やかな高速ギターフレーズも差し込まれ、瞬く間にオーディエンスを掌握する素晴らしい立ち上がりだ。

　「ハッピーにいこうぜ」ではハンドマイクにスイッチし、若き反骨精神を織り込んだ歌詞を歌い上げてゆく。深いワインレッドのコーデュロイジャケットを翻し、軽快にステップを踏んでパフォーマンスするさまは、真にスター性全開だ。そもそも彼は地元・愛知県を拠点に活動していたバンドCharactic Note（現在は解散）のリードヴォーカルを務めていた経歴の持ち主でもあるが、多くの視線にも物怖じしない強心臓ぶりはさすがトップYouTuber。コーラス部分ではフロア一面にピースサインが翳され、ライブの一体感を助長する。

　あらためての挨拶では“ご来店ありがとうございます！ うちの店、席が多いんだけど、みんな入れて良かったね。あと、晴れて良かったね！”（ライブ前日は関東地方も記録的な大雨だった）と告げ、かつて他アーティストのライブへのゲスト出演やイベント出演で立ってきた豊洲PITでのワンマン開催に感慨を漏らす。

　“どんどんバチバチに行きたいんで、行けるかい!?”と呼びかけながら披露する「Freedom!」では、スクリーン上でミュージックビデオとリアルタイムのライブ映像がクロスオーバーし、「oh oh〜♪」とオーディエンスの高らかなチャントを誘う。間髪入れずに繰り出されるソロデビュー曲「RESTART」の、けたたましいバンドサウンドを突き抜けてくる芯の強いヴォーカルも素晴らしい。壮観なタオル回しの視界の中で、熱唱だけでは物足りないとばかりに“今日はあなたと最高な日を作りに来ました！”と言葉を投げかけるのだった。

　バイタリティ豊かな歌がある一方で、バーのお客さんに扮したスタッフとともにライブグッズを紹介する寸劇が挟み込まれたりもする。“あ、あの人、ギター忘れてない!?”と追いかけるように一旦ステージから捌けたTOSHIMITSUが、次の瞬間にはド派手な柄物ジャケットに着替えて戻り大喝采を浴びるなど、自身の主催ライブで絶え間なくエンターテインメント精神を注ぎ込んでみせるのだ。

　華々しいダンスサウンドの「浪漫ticSTAR」ではギラギラとしたCGアニメーションの視覚演出を用い、はたまた「Viva!!」ではダンサー２人と乾杯しつつ、TOSHIMITSU自身も振り付けを交えて歌い踊る。バーテンダーとして男女４人のダンサーに差し出した瓶にはそれぞれ「C」「A」「K」「E」の文字が記されており、それを合図に妖艶で意味深なナンバー「C.A.K.E」が繰り出されていった。笑いを誘うコントのようでもあり、華麗なミュージカルのようでもあるそれは、『劇場版 TOSHIMITSU』という独自のエンタメを裏付けるパフォーマンスだろう。

　“ていうか、さっきの人、ギター取りに来ないなあ。弾いちゃう？ 弾いちゃうか！”というくだりから、アコギを手にひとりでじっくりと弾き語りする「死ぬまで笑いたい」。堂々たるタッチのストロークで、TOSHIMITSU自身の呼吸で、虚飾なしに丸裸の歌心が伝う一幕だ。そして静謐なピアノのフレーズに導かれる「ピエロ」では、シンガーソングライターとしてのTOSHIMITSUとYouTuberとしみつが重なり、現代をタフに生き抜こうとするひとりの表現者の姿が浮かび上がってくる。決して派手ではないけれど、ライブ中盤のハイライトとして観る者の心を揺らす２曲であった。オーディエンスからの熱い拍手が、その事実を物語っている。

　エモーショナルでクリスピーな節回しを決める「夢で逢いましょう」からは再び場内のボルテージを引き上げ、「Revolver」ではオーディエンスとの掛け合いの折に一時演奏を中断してまで“俺はお前を愛してるって言ってるよなあ!? お前らはどうなんだよ!!”とオフマイクで煽り立てる。オリエンタルなシンセフレーズがリードするディスコチューンの「LOVE SONG」では、ソウルフルなビブラート歌唱が映え、ライブ後半に差し掛かってなお絶好調なヴォーカリストとしての力量を見せつけるようだった。

　TOSHIMITSUの歌声の力強さ、発声の通りの良さを裏打ちしているのは、バンドのヴォーカリストとして活動した経歴ともうひとつ、かつて野球少年として鍛え上げた喉が挙げられるだろう。選手として目立った活躍を残したわけではないことは東海オンエアの動画でもしばしば話題にのぼるところだが、彼の歩んできた道のりすべてに弛まぬ努力が上乗せされて、今のシンガーソングライターTOSHIMITSUを形作っている。まさに情熱全開放という「HOT 〜燃えるハートはアレより熱い〜」のあと、ライブ本編を締めくくる「MusicAL」では、煌めくミラーボールの下であらためてバンドメンバーやダンサー陣を紹介しつつ、恍惚のライブ体験を完遂してみせた。

　アンコールの催促に応え、ライブグッズのTシャツ姿で再登場するなり早速パフォーマンスを再開するTOSHIMITSU。５月29日にリリースされたばかりの最新シングル曲「Parade」（2023年CBCテレビ・ラジオ野球中継テーマソング）だ。青春真っ只中の爽やかさとむせ返るほどの情熱がせめぎ合い、スリリングなバンドサウンドに弾けるナンバーである。《さぁ奮い立て 拳掲げて／音に乗せて 勝利を運べ／声枯れるまで歌い続けろ》というメッセージを自らステージ上で体現し、触れる者を鼓舞する。

　“こんなに汗かいてたの僕!? メイクもクソもないな！”と笑わせながら、オーディエンスを背景に全員揃っての記念撮影も行なわれる。そしてコロナ禍の季節も、彼がどんな姿を見せていたときもサポートしてくれたファンに感謝の思いを伝え深々とお辞儀すると、“なんか、つらくなったらまた会いに来て！”という言葉を残し、最後の最後にはテープキャノンとともに「スーパースター」を披露した。まさにスーパースターTOSHIMITSUを支える、漢（おとこ）としみつ。あらん限りのエンターテイナー精神と情熱を注ぎ込んだステージであった。

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公演情報

『劇場版 TOSHIMITSU -Bar-』
６月４日（日）東京・豊洲PIT

＜SET LIST＞
01. 僕らの鳥
02. ハッピーにいこうぜ
03. Freedom!
04. RESTART
05. 浪漫ticSTAR
06. Viva!!
07. C.A.K.E
08. 死ぬまで笑いたい
09. ピエロ
10. 夢で逢いましょう
11. Revolver
12. LOVE SONG
13. HOT 〜燃えるハートはアレより熱い〜
14. MusicAL

＜encore＞
01. Parade
02. スーパースター