【ライブレポート】BUMP OF CHICKEN 全国ツアー“be there”を完走。3時間近くにわたって声を繋いだファイナル公演の模様をお届けする!

2023年5月28日(日)さいたまスーパーアリーナ
取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine web)
写真:太田好治、立脇卓、横山マサト

全国11箇所、20公演に及んだBUMP OF  CHICKENのライブツアー、『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』ファイナル公演が、5月28日(日)に、さいたまスーパーアリーナで行なわれた。

公演終了後には本ツアーのタイトルを冠したバンド初の公式アプリ“be there”もオープンした。
同アプリでは、24時間365日、いつでも彼らの曲が流れ、そこにリスナーが集うことができる“LIVE MUSIC”というコンテンツが存在している。

藤原基央(vo、g)がオフィシャルサイトのインタビューでも語っているように、“リスナーひとりひとりのそばにいたい”というバンドの想い、ライブという限られた時間の中で持てるすべてを注ぎ込んで届けよう、繋がろうという姿を十二分に見せてくれたステージの模様をお届けする。

 広いアリーナのに設けられたセンターステージへと続く花道を、メンバーがひとりひとり、一歩ずつ噛みしめるように歩を進めていく。このオープニングからの演出に、できるだけオーディエンスとの距離を近くしたいというBUMP OF CHICKEN4人の想いがひしひと伝わってくるようだ。

 藤原基央(vo、g)がギターを高々と掲げると、待ちきれなかったような大声が360度から中央の一点に集中する。オープニングナンバーは「アカシア」だ。繊細だが力強い唯一無二の藤原の声がギターのアルペジオに重なっていき、ベースとドラムが加わって一気にバンプの世界へと誘ってくれる。
 短い間奏を利用して、藤原が“こんばんは、BUMP OF CHICKENです。声出していいんだぜ。だから聞かせてくれ、埼玉。君に会えた証拠をさ!”と叫ぶ。会場全体で《Oh yeah yeah ah huh》と腹の底から出す声を聞くと、コロナ禍に生まれたこの曲こそ、このツアーのオープニングにふさわしいということを実感させてくれた。

 小さなリハスタでも足りるような、ドラムを囲んだ小さな空間に4人が集まって始まったのは「ダンデライオン」。増川弘明(g)がロカビリーテイストの軽快なカッティングをハジくと、会場は2ビートの心地よい縦揺れに包まれる。

 《「イマ」というほうき星 君と二人追いかけていた》のフレーズを頭に持ってくるアレンジを施した「天体観測」をここで早々に投入。《Oh yeah ah》の地鳴りのような大合唱で準備が存分に整ってから、お馴染みのイントロがスタート。これまた序盤から惜しげもなく銀テープが舞うという驚きの展開だった。リリースから20年以上が経過しているにも関わらず、誰の心にも刻み込まれる「あの声」がそこにある。良い意味で「蒼かった」当時に比べて格段に力強くなった歌声や演奏から、彼らとファンのキャリアが如実に刻まれたことを知る素敵な空間にしてくれた。

 メインステージに戻ると、藤原が“そう、僕たちはもう声を出していいんです。君の声が帰ってきたんです。やった!”と喜びを爆発させる。“44歳のオジサンですけど、年甲斐もなく求めます、欲しがります”と語ると会場も大きな拍手と声で応えた。一方で、声を出さない、なんなら座ったまま傾聴するというスタイルも全然OKだと強調し、楽しみ方はそれぞれだと訴える。こういったところにも自分たちの音楽を愛するファンを全体としてではなく、ひとりひとりの人間として接しているという気持ちが表われているのではないかと感じた。

 増川のMCから、チャマ(直井由文:b)がバトンを引き継ぎ、客席に向けて発声練習を行なう。肩に力を入れて、スッと落とす。これが力の抜けた状態で、めっちゃ声が出ると。“お前らツアーファイナルだからな、全力で楽しむ準備はできてるか? イエイ!”とコール&レスポンスで煽る。

 大歓声の直後に藤原のアコギから「なないろ」が始まる。虹色のレーザーに包まれて美しいファルセットのサビが響きわたる。複雑なリズムアレンジにバンドの演奏テクニックが存分に味わえた「透明飛行船」に続き、オリエンタルな響きのアルペジオとコーラスが印象的な「クロノスタシス」、シンセの美しい音色とギターのアルペジオで彩られる「Small world」、さらに厳かなストリングスで幕を開けた「魔法の料理 〜君から君へ〜」が届けられた。

 このミディアム〜スロウのブロックでは、藤原が持つ独特の倍音が唯一無二であることをより知ることができる。「Small world」に代表されるファルセットもとても美しい。そして「魔法の料理 〜君から君へ〜」の後半で繰り広げられるブルージィなフェイクも、藤原の広く深い音楽性を表わすハイライトのひとつだ。

 再びセンターステージに歩み寄った4人。藤原のアコギ弾き語りで始まる「プレゼント」では増川のブルースフィールあふれるオブリガートやペンタトニック活かした力強いソロに耳を奪われる。藤原の歌声も徐々に熱を帯びていき、エモーショナルに歌い上げていった。

 藤原の曲終わりの“ありがとう”の言葉に万雷の拍手が贈られたあと、2度目のMCタイム。増川はツアー先で土地の美味しい食事についてステージで話すことが多いという話題から、“まとめますと、みんなが(ライブに)来てくれてるじゃないですか。だから行けて、だから食べられてるっていうか”と発言。これには藤原やチャマも感心していた。

 チャマからは“こうやってライブができているのは、声出しができるのは、皆さんが耐えて、頑張って、守ってくれたおかげです。ありがとうございます”と感謝の言葉が発せられた。その後、スマホをかざして“be there たまアリ!”のコール&レスポンスを会場と一体になって楽しんだ。

 “鼻をかむティッシュを暗転中に用意してほしい”という業務連絡で沸かせた藤原に続き、ラストはドラムの升秀夫が飾る。藤原いわく“100人キャパのライブハウスだろうと、さいたまスーパーアリーナだろうと、頑なにマイクを使って話さない男”らしく、今回ももちろん生声でのMC。その理由は“ドラマーとしてのアイデンティティ”ということだ。“ツアーファイナルでーす!(×2)大事なことなので2回言わせてもらいました。最後まで楽しみましょう!”と最上階の一番うしろまで届くような大きな声で叫んでくれた。

 続いて演奏されたのは「新世界」。藤原は右耳のイヤモニをはずし、ハンドマイクでひとり花道を歩きながらアカペラで観客の《ベイビーアイラブユーだぜ》を味わう。コール&レスポンスでは、男性、女性、大声、小声、フェイクを入れた節回しを文字通り“欲しがって”いた。

 メインステージに戻ってプレイされたのは4月にパッケージシングルもリリースされた「SOUVENIR」。飛び交うレーザー光線の中、藤原と増川のストラトキャスターがクリーンカッティングを重ね合い、升とチャマのリズム隊が軽快なビートを刻む。間奏から手拍子が自然と強まっていき、コーラスの声も大きくなっていった。

 スロウナンバー「Gravity」では、今戻ってきたばかりの花道にも歩を進めながら、ハンドマイクで声を届ける。“ラララ”の声に合わせ、オーディエンスのブレスレットから発せられる光が揺れた。

 そしてNHK総合が企画したTV番組『BUMP OF CHICKEN 18祭(フェス)』で1,000人の18歳世代と声を合わせたナンバー「窓の中から」を歌うと宣言。藤原は“俺と同じ主旋律だってかまわないし、ハモれるよって練習してきたツワモノはそれを歌ってくれたってかまわねえし、いや、じっくり聴きたいんだって人は聴いてくれたってかまわねえし”と語った。

 演奏しながらチャマと増川がセンターステージに移動。藤原もハンドマイクを手にして歌いながら歩を進める。徐々にゴスペルテイストのコーラスパートが大きくなり、会場に大きなうねりを生み出していく。声って偉大ですごい力を持っている。理屈ではなく会場にいたすべての人がそう感じたのではないだろうか。メインステージへの戻り際、藤原が嬉しそうに“この曲書いてよかった”とつぶやいたのが、なんとも微笑ましい瞬間だった。

 スピーディなギターリフが牽引する「月虹」でライブは後半へ向けてのラストスパートの様相を呈する。中盤にリズム変化もあって、歌だけでなく全体としてもテクニカルな楽曲だが、4人のサウンドスケープは鉄壁で揺るぎない。ラストはギターふたりで美しいキメをこなしてグータッチを交わした。

 続く「HAPPY」でもチャマと増川がセンターステージに陣取り、左右のお客さんに向き合うようにプレイ。藤原は“会えて嬉しいぜ。お互い生まれてこなかったらさ、こんな夜はなかったんだよ。だったら君のバースデーはハッピーだろ? 君が、君の声で、君に歌ってやってくれ! 俺が手伝ってやる。27年間やってるんだ、任せとけ!”と力強く語りかける。ラストでは渾身の《HAPPY BIRTHDAY》を届けて大喝采を浴びた(このビブラートが美しい)。

 軽快な16ビートで会場中の両手が左右に振られた「ray」では、センターステージで増川のギターソロの最中にチャマが客席まで降りてプレイするサプライズも! 歌詞の《生きるのは最高だ》という文字が会場の最上段に映し出されて、みんなで声を合わせて歌った。

 ライブ開始からちょうど2時間に達した頃、ラストナンバー「supernova」が奏でられた。そのヴォーカルはフリーキーで、感情の赴くままにメロディを紡いでいく。そして会場が《ラララ……》の声で満ち溢れる。フェイクしながら、“歌声ありがとうな!”と叫ぶ。藤原のこのシンプルな言葉こそ、まさに今日のライブそのものを表現するにピッタリだったと思う。

藤原基央(vo、g)
増川弘明(g)
直井由文(b)
升秀夫(d)

 暗転した会場内から、手拍子とともに「supernova」の《ラララ……》の大合唱が自然発生的に起こり、4人の帰還を一体となって待つスーパーアリーナ。

 ほどなくアンコールに応えて登場したメンバー。普段はドラムセットから動くことができない升が、ここぞとばかりに上手〜下手に渡って敷かれた花道を駆け抜ける。最後は藤原と増川のいる下手へ全力疾走してたどり着くと、会場も大盛り上がりだ。

 アンコール1曲目は「embrace」だ。ハンドマイクで丁寧に、かつソウルフルに歌い上げる藤原。さまざまな音楽性を内包する彼のシンガーとしての幅を感じさせる楽曲のひとつだろう。

 “もう1曲付き合ってくれる?”と話して届けられたのは「ガラスのブルース」。ストレートな8ビートを荒々しく届けるメンバーたち。藤原が《ガラスの眼をした さいたま叫べ!》、《ガラスの眼をした さいたま歌え!》と煽る。それに応えてるように《ガラスの眼を持つ猫は星になったよ》からのワンセクションは客席だけのアカペラで包んで返す。さらに《みんな唄いだす》のあとを受けて大声でヴォーカルを努め上げていく。

 鳴り止まない拍手の中、メンバーがひとりずつ挨拶をして舞台袖に姿を消した。ひとり残った藤原はマイクの前に立ち、バンドにとってのライブの意味、“君”と呼ぶオーディエンスへの感謝……。さまざまな想いを熱く語ってくれた。“be there”ツアーがバンドにとって、本当に大切な関係を再確認させたんだなと思うと、こちらも胸が熱くなる。

 そして“時間ある?”と問いかけてから、ひとりでギターを持って「宇宙飛行士への手紙」を歌い出した。升が下手側から飛び出してきてなんとか最初のシンバルに間に合った。増川とチャマも駆け付けて合流する。間奏では藤原が“行けーっ! 増川弘明!”とシャウトして、速弾きも含んだギターソロになだれ込むエモーショナル全開なシーンが展開された。明日声が枯れても構わないんじゃないかと思えるくらい、力の限り歌う藤原。

 楽器を置きセンターステージに出向いて感謝の意を表わす4人。帰り道は仲良く肩を組んでメインステージへと戻っていった。

 気づけば3時間近くにも及んだライブは、まさに“声の力”がバンドとオーディエンスを繋ぎ続けたステージだったと言えよう。最後の最後、藤原はすでに新曲ができて、これからバンド4人でいじくっていくと語っていた。その曲はまた“君の姿”を思い浮かべながらレコーディングされ、“君のそば”に届けられるのだろう。だからBUMP OF CHICKENは音楽を、ライブを続けているのだから。


公演情報

『BUMP OF CHICKEN TOUR 2023 be there』
2023年5月28日(日)
さいたまスーパーアリーナ

<SET LIST>
01. アカシア
02. ダンデライオン
03. 天体観測
04. なないろ
05. 透明飛行船
06. クロノスタシス
07. Small world
08. 魔法の料理 〜君から君へ〜
09. プレゼント
10. 新世界
11. SOUVENIR
12. Gravity
13. 窓の中から
14. 月虹
15. HAPPY
16. ray
17. supernova
ENCORE
18. embrace
19. ガラスのブルース
Double Encore
20. 宇宙飛行士への手紙

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