取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine web) 撮影:新保 勇樹
高橋 優 10th Anniversary Special 2Days 『弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優』
【白橋優の日】2022年2月9日(水)東京・日本武道館
高橋 優 10th Anniversary Special 2Days
『弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優』が、
2月8日(火)、9日(水)に日本武道館で開催。
自ら【ダークサイドの黒橋優】と【ほんわかサイドの白橋優】をテーマにして、
2日間で被りなしの全44曲を原点である弾き語りで歌い上げた。
まさにデビュー10周年の集大成を見せつけた2Daysから、
優しさと多幸感に包まれた【白橋優の日】の模様をお届けしたい。
前日同様、ボブ・ディランがSEとして流れる開演前の日本武道館。【黒橋優の日】と同じ映像の流れから、今夜の高橋は白いシャツを身にまとっての登場となった。ギブソンJ-45を肩に掛けて注目のオープニングは「ありがとう」を持ってきた。低いトーンでゆったりとすべり出して、レガートに流れる美しいサビを歌いあげる。“黒橋優”の1曲目が「こどものうた」だっただけに、その対比が本当に鮮やか。
続いて軽快な8ビートを刻みながら「現実という名の怪物と戦う者たち」へ。冒頭2曲で、《今ここに君と僕とでいられるということ》に感謝して《出会えて良かったと心から言える》と歌う。【白橋優】の基本姿勢を早くも見せられ、会場は一気に柔らかな空気に満ちていった。
最初のMCでは、“今日は僕の中にある希望、光を皆さんに感じていただけるように”と【白橋優】のコンセプトを語った。また、この2日間での曲被りがないことを宣言したことで、会場がまた一段と盛り上がる。
ギブソン・ダヴ(高橋優シグネチャー)に持ち替え、会場へ着席を促して自らも椅子に腰掛けて「靴紐」を披露。後半に向かって力強くなるストロークと歌声が武道館にじわっと染みわたっていくようだった。ブルースハープを吹かしながらリズミカルにプレイされた「life song」では楽しげな手拍子が鳴り響き、高橋も“ナイス手拍子!”と笑顔を見せる。西へとステージを回転させながら「花のように」へとなだれ込む。ウエディングソングとして作られた「産まれた理由」では、一瞬にしてカポタストを移動しての転調をくり出してみせた。
続くMCでは前日に引き続き、九段下駅でいちご大福を購入した話の続編。しっかりとオチで勢いをつけて「今、君に会いに行く」になだれ込み、グリーンのライトに包まれながらスピーディなギターストローク&ヴォーカルを展開。さらにボ・ディドリー・ビート(ジャングルビート)に乗せた「蓋」へ。語尾のぶっきらぼうな感じがボブ・ディランっぽいなと感じながら、リズムに身を委ねる。レーザー光線が縦に伸びて、初恋の甘さとほろ苦いストーリーを日記のように描き切った「8月6日」では、ジョン・レノンの名曲と同じコード進行の間奏が耳に残る。こうしたレジェンドたちのDNAをしっかり感じさせるあたりもさすが。さらに渾身のロングトーンに心揺さぶられた「友へ」と、重厚感のある歌の連続で折返しを迎えた。
コロナ渦になって健康に気をつかっている話から、デビュー直後に意識して略語を使わなかったというトークを経由して、“コンビニ”という歌詞から入る「サンドイッチ」に。3フィンガーでのファニーな楽曲で、ホルダーに挟んだカズーを吹き、歌にも若干の歪みを加えて良い意味でのチープ感を出す。手拍子が湧き上がった「微笑みのリズム」ではブルースハープ、前日に続いて登場したループステーション+ストラトキャスターでの「虹」と目先を少しずつ変化させながら楽しませる。「虹」はエレキを歪ませた弾き語りにしたことで、曲のもとの姿が鮮明になった気がする。それくらい高橋の声とエレキのシズル感の相性が抜群で鳥肌モノだった。
コロナ感染者がまた増えてきて、来場を断念した人たちへ想いを吐露した高橋。“難しい世の中だけど、次に演奏する曲をいつでも用意して、また会えたときに届けたい”と語って歌い出した「おかえり」。すると、去来する想いに高橋の目から溢れるものが。声は出せないから、会場は人一倍の優しさで拍手を長く、とても長く続けた。続くステージ周りに炎を灯しながら歌う「少年であれ」の、優しい歌詞が心にスッと入ってくるという2曲の流れは、何度も神がかった場面が訪れた今回の2日間でも白眉の瞬間だったと言えよう。
後半戦は前日も大活躍したループステーションを起動させ、アコギのボディを叩くスラム奏法後、すぐストラトに持ち替えて「one stroke」から。1月まで開催していた『THIS IS MY PERSONALITY』の熱量を持ち込む疾走感に心踊る。同じスラムを使った「BE RIGHT」では迸る感情を早口言葉に乗せて全力で叫び続けた。ラストは“心の中で歌ってくれ、聴こえるぞ武道館!”と会場へ向けて声を枯らした。
さらに、すぐさまアコギに持ち替えて「明日はきっといい日になる」。多幸感に満ちた武道館が大きな手拍子で応える。“まだまだいけるっしょ!”と昨年リリースした「Piece」で笑顔の追撃をする高橋(白橋)。壮大なアレンジが施された楽曲を、ほぼギター1本で再現しているのだが、不思議とストリングスやティンパニなどの音が聴こえてくるようだ。
“馬鹿と言われても、みんなに会えること、会っているからこそ感じられる気持ちをずっと大事に思ってます。いろんな人に出会わせてもらった曲を最後に歌わせていただきます”。
そう語って歌い出したのは「福笑い」。気づくと七色の照明が武道館のあちこちに虹を作り出し、アリーナも1階席も2階席も全体に少し明るくなった。マスクをしていてもみんな笑顔で手を叩いているのがわかる。《きっとこの世界の共通言語は 英語じゃなくて笑顔だと思う》という歌詞はコロナ禍だからこそ、また別の意味を持って伝わってくるようだ。
アンコール1曲目は「Beautiful」。武道館の天井には白い照明で星空が描かれ、《君は美しい》と絶唱する高橋の歌声に聴き入る。実に“白橋優”らしい選曲だ。そして、昨日から被りなしの44曲目、オーラスは「リーマンズロック」。ストラトでの大きなストロークに合わせてビタッと武道館全員の手拍子が合わさる。その音は間奏でこれ以上ないほど大きくなり、最後の力を振り絞る高橋を鼓舞するようだ。
身体全体で《生きていけ》というフレーズを発したところで武道館が全灯。“また会おうね。直接歌を届けさせてください。高橋 優でした!”と締めの言葉を発した。この日もすべての方角のファンへ丁寧に挨拶を済ますと、“負けないでいこう。お互い頑張ろう”とエールを送りステージをあとにした。
主役が去ったあと、暗転した会場のモニターに新曲「HIGH FIVE」のミュージックビデオが流れた。このビデオは2月25日(金)午前0時に高橋優オフィシャルYouTubeチャンネルにて、プレミア公開される。
1日目【黒橋優】は、“黒い”という表現になっているが、真っ黒というよりも、本人の衣装が赤だったように、若さゆえの憤りや正義感といった“燃えたぎる炎(の色)が入った黒”だったのだろう。リリース当時のジャックナイフのような歌い方ではなく、本人が初日冒頭で語ったように“黒い中の光”を表現したヴォーカルに変えて(変わって)いたように感じる。一方の【白橋優】では、初期ナンバーもあるが最近の楽曲の比率が高かった。年齢を重ね、多くのファンを笑顔にする役目を背負っている現在の高橋だからこそ、歌うことができる曲が増えてきているのだろう。その両面を今回は分けて出してくれた実験的なライブは大成功だったと思うし、今後は大人の【黒橋優】ナンバーが楽しみだなと、九段下の坂を降りながら思った。
公演情報
高橋 優 10th Anniversary Special 2Days「弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優」2月9日【白橋優の日】
2022年2月9日(水) 日本武道館
<セットリスト>
01. ありがとう
02. 現実という名の怪物と戦う者たち
03. 靴紐
04. life song
05. 花のように
06. 産まれた理由
07. 今、君に会いに行く
08. 蓋
09. 8 月 6 日
10. 友へ
11. サンドイッチ
12. 微笑みのリズム
13. 虹
14. おかえり
15. 少年であれ
16. one stroke
17. BE RIGHT
18. 明日はきっといい日になる
19. Piece
20. 福笑い
<アンコール>
21. Beautiful
22. リーマンズロック
リリース情報
「HIGH FIVE」高橋 優
『侍たちの栄光 〜野球日本代表 金メダルへの8か月』テーマソング
2022年2月25日(金)午前0時 配信リリース
高橋優「HIGH FIVE」MV