アイナ・ジ・エンド 唯一無二の“声”と、鍛え上げられたダンスで魅せた“進化し続ける”アイナの現在地

2021年10月22日(金) 中野サンプラザホール(写真は大阪オリックス劇場)
取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web) 撮影:外林健太

10月6日(水)、愛知・日本特殊陶業市民会館フォレストホールを皮切りに、全国8ヵ所10公演で開催されたアイナ・ジ・エンド2度目のソロ・ツアー『AiNA THE END Solo Tour 2021 “THE ZOMBIE”』。

ツアー最終盤の11月24日(水)には、2ndソロ・アルバム『THE ZOMBIE』がリリースされたこともあり、1stアルバム『THE END』と『THE ZOMBIE』からバランスよく選曲されたツアーメニューとなった。

唯一無二の“声”、鍛え上げられたダンス、独自の感性で築いた世界観……。ソロ・アーティストとして凄まじいスピードで進化を続けるアイナ・ジ・エンドの現在地を、10月22日(金)、東京・中野サンプラザホールで目に焼き付けてきた。

 開演前の会場に流れていたのは、チェロで奏でられるバッハのしらべ。撮影OKを告げるアナウンスを確認するとスマホを掲げる来場者たち。そこかしこで数十万円する望遠レンズがステージへ何本も向けられる。さあ、主役の登場を待つ準備は整った。

 ステージ中央にダンサーが2名立つ。ピアノの旋律とともに彼らが踊りだす。1曲目は8月に配信されたシングル「ロマンスの血」だ。階段の上にある鏡の中に黒いドレスを纏ったアイナが現われる。8分刻みのベースと裏打ちハイハットのドラムが先導するビートの中を、アイナのシャウトが切り刻んでいく。オープニングから会場の空気を掴んで離さない。そんな気迫が感じられる。

 “はじめまして、アイナ・ジ・エンドです!”と発し、「NaNa」へなだれ込む。大井一彌の4つ打ちのドラムの間をすべるようにヴォーカルが踊り、天性のリズム感でグイグイとバンドを引っ張る。3曲目「サボテンガール」は “中野、踊ろ!”と笑顔で客席とともに手を左右に揺らす。張りのあるトーンが会場を包み込み、ピースフルな雰囲気に変えていった。

 “秋にこの曲が歌えて幸せです”と語り、ハンドマイクに持ち替えてしっとり歌い出したのが「金木犀」。なかむらしょーこが奏でるファズの効いたベース・ソロに合わせ、寝転ぶ姿が印象的だった。「日々」では長ソファーに寝そべりつつ、時にうつぶせのまま歌唱するなど、表現者としての高いパフォーマンス力に視線が釘付けとなる。

 ニュー・アルバム収録「彼と私の本棚」は、ギターのクリーン・カッティングとスラップ・ベースという、シティ・ポップ・テイストの楽曲。アイナも手拍子を要求し、会場は心地よいグルーヴに包まれていった。「家庭教師」で横ノリを引き継ぎ、よりダンサブルな空間へ。

 2回目のMCでは、BiSH加入前に住んでいたという中野についての話を披露。商店街のアーケードで歌っていたそうで、通りがかりのおじさんに、ケンタッキーのチキンをご馳走してもらったことも……。

  “綺麗事じゃなくて、みんなの顔を見ると安心します”と語って披露したのは、BiSHのナンバーで「リズム」。ここで聴けたヴォーカルは凄みさえ感じさせ、特にリフレイン一発目から三発目へのギアの上げ方は、底知れぬ表現力の深さを持って届けられたと言えよう。

 息を多め、少し力を抜き気味に歌う巧みさが光った「残して」は徐々にエモくなり、低音から高音まで幅広い音域を使う。「粧し込んだ日にかぎって」では、《愛してるよ》のリフレインで、いくつもの歌い方を使い分ける。ヴォーカリスト、アイナの高いスキルを感じさせる2曲であった。

 ここで3回目のMC。新曲「ZOKINGDOG」での“ワンワンダンス”の振り付けを指導。感染対策で声が出せない中、無言で手を上げて踊るシュールな空間。しかし、さすがは清掃員。何事もなかったかのようにマスターしていく。

 曲調はゴリゴリのロカビリー。名越由貴夫と田中義人という最強ツイン・ギターがともにジャズマスターを掻き鳴らす。客席を左右に分けてのダンス大会も敢行され、アイナいわく“中野サンプラザ、犬まみれ”と相成った。

 キレキレに手を動かすダンスをしながら、まったく乱れぬロングトーンを発した「ハロウ」、EDMっぽさとプリミティブな《痛い》という言葉のミスマッチ具合が耳に残る「Retire」、グリーンのライトを浴びながらソファに仁王立ちした「誰誰誰」と3曲を畳みかけるエリアは圧巻。アイナが一旦捌けても、SHIMIZU MASH、UFOのダンス・パフォーマンス・コーナーが続き、バンドとともにトランス状態へと会場を導く。

 すると、アイナが白いシャツに黒のパンツというシンプルな姿で戻ってダンスに合流。前日もそうだったようだが、これは私服。“(用意していた)ランジェリーっぽい気分じゃなくて……”とのこと。このあたりの感性に正直なところも彼女の魅力だろう。

 ラストスパートは、「ワタシハココニイマス for 雨」から。スタンドマイクに体重を預けながら絶叫する姿は、シンプルな服装も相まって、どこか尾崎豊が纏っていた空気と重なったのは気のせいだろうか。続くロック「STEP by STEP」ではパワフルなヴォーカルで会場を一体にさせる。《楽しくてたまらない》の歌詞同様に、アイナも笑顔満開だ。

 本編のラストは中野に住んでいた頃に作ったという可愛くて力強いバラード、「きえないで」。河野圭のピアノとアコギだけで入る小曲から、バンドインしてからは壮大なスケール感を湛えたアレンジになり、隕石が降り注ぐプラネタリムへ。そしてまた小さな部屋に戻ってくる。

 アイナが住んでいたという中野区の野方というところは、駅の喧騒から少し離れた場所だ。大阪を離れて暮らす小さな部屋の中で、デビュー前の少女は何を感じていたのだろう。そんなことを思い浮かべずにはいられない。そう、アイナの歌は時空も重力も軽々と超えていくのだ。

 アンコールでは、ダンエレクトロのギターを抱え、タータンチェックのスカート姿で登場。ラストナンバーに『THE ZOMBIE』収録の「ペチカの夜」を選んだ。ギター4本、ストリングスやコーラスで作られた分厚いサウンドの壁の中を、身体、首を揺らしながら突き破らんとするアイナの歌声。中野サンプラザを訪れた人たちは、ただその音を浴びるだけ。それで良かったというラストだったに違いない。

 “ギターうまくなるね。なるべく元気で、また会いましょう”。はにかみながらアイナ・ジ・エンドはスタージをあとにした。このソロ・ツアーは11月25日まで開催されており、ひとつずつ公演を経て今頃はさらにパワーアップしていることだろう。

 そして、大阪城ホールでの単独公演(2022年3月17日)開催が発表された。地元のアリーナ会場で大暴れする姿が今から待ち遠しいが、それまでは新作を聴いてしっかり準備しておこうではないか。


公演情報
『AiNA THE END Solo Tour 2021 THE ZOMBIE』
2021年10月22日(金)
中野サンプラザホール

SET LIST
01. ロマンスの血
02. NaNa
03. サボテンガール
04. 金木犀
05. 日々
06. 彼と私の本棚
07. 家庭教師
08. リズム
09. 残して
10. 粧し込んだ日にかぎって
11. ZOKINGDOG
12. ハロウ
13. Retire
14. 誰誰誰
15. ワタシハココニイマス for 雨
16. STEP by STEP
17. きえないで
EN1. ペチカの夜

リリース情報
『THE ZOMBIE』アイナ・ジ・エンド
2021年11月24日(水)発売

■初回生産限定盤(CD+Blu-ray+PHOTOBOOK) 11,000円(税込)
映像:1st solo Tour “THE END” LIVE映像 他 収録予定

■DVD盤(CD+DVD) 6,380円(税込)
映像:1st solo Tour “THE END” LIVE映像

■CD盤 3,300円(税込)

<CD収録曲>※全形態共通 17曲
01. ZB1
02. ZOKINGDOG
03. ロマンスの血
04. Sweet Boogie
05. 神様
06. はっぴーばーすでー
07. Retire
08. 誰誰誰
09. 残して
10. 家庭教師
11. 彼と私の本棚
12. 勘違いべいびー
13. おでかけワンピース
14. ワタシハココニイマス for 雨
15. あぁ揺れてる
16. ペチカの夜
-Bonus track
残って

<Blu-ray Disc収録内容>
1st solo Tour “THE END”@東京国際フォーラムホール A
01. ハロウ
02. NaNa
03. サボテンガール
04. 金木犀
05. 日々
06. あぁ揺れている
07. 勘違いベイビー
08. 粧し込んだ日にかぎって
09. 死にたい夜にかぎって
10. 静的情夜
11. 虹
12. 誰誰誰
13. STEP by STEP
14. きえないで
15. 彼と私の本棚
En.1スイカ

Music Video
01. 彼と私の本棚
02. 誰誰誰
03. ロマンスの血
04. ペチカの夜、他

Special Contents
1st solo Tour “THE END” -Document Movie-
80P PHOTOBOOK
撮り下ろしPhoto(BORN SICK / DEAD HAPPY / THE ZOMBIE)
1st solo Tour “THE END” Live Photo

ライブ情報
AiNA THE END “帰巣本能”

会場:大阪城ホール
日程:2022年3月17日(木) 開場17:30 開演18:30

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