ミュージカル俳優歌手の喉ケア

【専門トレーナーに聞く】ミュージカル俳優・歌手の喉のケア方法と、痛めやすくなる原因

監修:清水ブルー
取材:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

生の声で観客を魅了し、ハードなスケジュールをこなすミュージカル俳優・歌手の方々にとって、喉のケアはとっても重要です。

今回は、ミュージカル俳優を経て舞台演出、プロデューサー、ヴォイストレーナーと幅広く活躍している清水ブルー先生が、ミュージカル俳優・歌手特有の喉のお悩みや、喉のケア方法を解説します。

声が枯れやすいと感じることがある人は、何が原因なのかを探りながら、ミュージカル俳優・歌手の方々が実践している喉のケア方法を取り入れてみてください。

監修

清水ブルー
東京都出身。中学時代に『CATS』を観てミュージカル俳優を志す。早稲田大学の在学時より100人規模の団体を立ち上げて自主公演を行ないながら、『レ・ミゼラブル』や『ミス・サイゴン』などに出演。30歳を過ぎてからは舞台やYouTubeのプロデュースを数多く手掛ける。所属するClarity Arts Schoolでは、Webマーケティングを本業としつつ要望が多かったヴォイストレーニングも担当。最近はおもに解剖学をもとにしたトレーニングについて、定期的にトレーナー仲間と勉強会を開催している。

ミュージカル俳優・歌手が喉を痛めてしまうときの原因

ミュージカル俳優・歌手が喉を痛めてしまう大きな原因としては、次の3つがあります。原因を知り、経験を積むことで対策できるようになっていきます。

舞台上の乾燥

ミュージカル俳優・歌手が喉を痛めてしまう理由として大きいのは、舞台上の乾燥です。舞台の上は照明や環境の都合でどうしても乾燥しやすく、会場があれだけ広いと加湿もなかなかできません。そのため、乾燥が一番の敵なのです。

ハードなスケジュール

ミュージカルは1ヵ月の間に毎日公演があったり、1日2回公演をすることもあるので、喉を使っている時間が多い傾向があります。そのぶん喉がダメージを受けやすいことも、ミュージカル俳優・歌手特有の悩みです。

イヤモニを使わない環境

ミュージシャンの方はステージでイヤモニを付けて耳から直接自分の声を聴くことがありますが、ミュージカルの舞台ではイヤモニを付ける人はほとんどいません。客席へ向けたスピーカーから聴こえる音(外音と言います)を意識して聴いているのです。さらに会場によって空間の広さも違うので、中には普段の自分の声の鳴らし方がわからなくなってしまうケースもがあります。

いつもと違う慣れない環境の中でも、いつものように歌わなければならない。これは難易度が高いものなので、声を枯らしやすくなるのです。

また、ミュージカルではお芝居をしているので、感情が高ぶって胸に力が入りやすくなる人もいます。胸が締めつけられるのは喉にとっても良いことではないので、本番で熱が入ると、喉に負担をかけてしまう方も多くいらっしゃいます。

ミュージカル俳優・歌手が実践している喉のケア方法

プロの方々はそれぞれ自分に合った喉のケア方法を見つけて取り入れています。喉の状態を気にしすぎることもストレスに繋がってしまうので、ストレスなく取り入れることができる喉のケアを探してみてください。

(1)加湿

多くの方は普段から加湿器を使っていますが、中には2台同時に使う人もいて、布団にカビが生えやすいという悩みもお持ちだったりもします。

喉の保湿の問題に関しては、ハチミツを使う人が多いです。僕の場合は、舞台に出る直前にハチミツを喉に溜めてから飲み込んでステージに出ることもありました。喉専用の加湿器や吸入器を楽屋に持ち込んで潤す人もいます。

(2)喉ケアグッズの活用

喉ケアグッズとして皆さんが愛用しているのは、

・加湿器
・ハチミツ
・龍角散のど飴
・京都念慈菴 ビワのど飴
・プロポリスキャンディー
・スロートコートティー
・ユーカリ系のアロマ
・鼻うがい
などです。

ユーカリは喉の炎症を鎮めてくれるのでおすすめです。

また、出番を終えて舞台からはけたときに、保温ポットに入れてある温かい「スロートコートティー」や「ハチミツを入れたロシアンティー」を飲む方もいらっしゃいます。

(3)睡眠時間を確保する

寝不足だとストレスが溜まってしまいますし、何より寝ている時間が一番喉を回復してくれると考えています。“寝るのは最強の喉ケアだ”とも昔からよく言われています。

(4)ビタミンCと鉄分を補給する

人間の声の仕組みを大まかに説明すると、声帯の左右の粘膜がぶつかり合って声が鳴っています。粘膜だけがぶつかっている状態なら、実は喉はそんなに傷つきません。しかし、粘膜が薄くなった状態で声帯がぶつかり合うと、中の靭帯が傷つくことがあります。そうすると結節でタコができてしまい、声帯がくっつきづらくなり、声が出づらくなるという問題になります。

だからこそ、この粘膜を短時間で回復させる力が必要なのですが、ビタミンCや鉄分をよく摂っている方は、粘膜の回復が早い傾向があります。

ただし、そもそも喉の使い方(発声方法)を誤っている場合は、靭帯だけでなく声帯自体が傷つきやすい状況になっている可能性があるので、その場合は発声のバランスを整えることも重要になります。

(5)唾液を多く出す

最近の研究では、唾液の中に喉を保護する粘膜を分泌しやすくするホルモンが入っていることがわかってきました。そうだとすると、口が乾くと声が枯れやすくなるのも納得できますよね。唾液は、ご飯を食べるときに舌をたくさん動かすことで多く出すことができます。そのため、喉ケアとしてこのような部分から意識している方もいます。

(6)“気にしすぎない”ことも大切なメンタルケア

ここまで具体的なケア方法を解説してきましたが、喉を守るために一番大事なことは、あまり気にしすぎないことだと思っています。僕もすごくストレスを溜めてしまうタイプで、本番中に声帯に結節ができてしまって、毎朝“声が出ないんじゃないか?”と思って起きる時期がありました。

そういうときに限って地方公演で、普段ならダブルキャストで1日1公演のところ、1日2回公演が3〜4日続き、1日休んでまた3日公演が続くというような、喉を休ませようにも休ませることができない環境でした。今思えば“やれるだけのことをやって心配しない”ということができていたら、もう少し違ったのかなと思ったりします。

ストレスも喉の状態に影響すると考えられているので、場合によっては気にしすぎて喉が枯れてしまうこともあります。そのため、ミュージカル俳優の皆さんも、徐々に気にしないようになっていく傾向があります。

「声枯れが起きやすい発声」3つのチェックポイント

プロ(特にクラシック)の方は、普段から“いい声でしゃべり続ける”ようにしています。その際に息が過剰に出てしまうと喉が乾きすぎてしまうので、息混じりのしゃべり方は良くないのです。リラックスしたうえでしっかり発声できている状態が、喉に負担がかからないと考えられています。

例えば、アパレルのショップ店員さんなどは鼻にかかったような特徴的な声を出していませんか? あれは喉に余分な負担がかからない声の出し方をしているからです。いい声でしゃべると息を使う量が少なくなり、喉の負担も少なくなります。

声が枯れやすいと感じることがある人は、次の3つのポイントをチェックしてみてください。

(1)“息漏れ”発声

普段から息混じりの声でしゃべっていると、声が枯れやすくなる傾向があります。これは“息漏れ”という喉の使い方の問題で、喉が乾燥する原因にもなります。息がシャーシャー漏れるような声になっている場合は、息の成分を減らして発声するためのトレーニングが必要になります。

(2)高音を叫んで発声している

高い音を歌うときに、叫ぶように声を出している場合は、喉の筋肉を痛めることに繋がってしまうこともあります。例えば、母音の“あ”で音階練習をしたときに、途中から叫ぶような発声に変わってしまう場合は注意してください。叫ぶ行為は、喉に負担がかかるケースがとても多いです。すべての音階を同じ音量で発声できるようにトレーニングすることが重要です。

(3)低音が安定していない

ファルセットや高音はきれいに出るけれど、低音が出づらいという人も声が枯れやすい傾向があります。低音が安定しないということは、筋力が足りていない可能性が高く、乾燥して喉を痛める原因になる可能性も高いです。

また、無理に低音を出そうとすることで、声帯を圧迫して痛めるケースもあります。無理に声を出そうとするのではなく、声帯の張力のキープを意識して歌ってみましょう。

注意点として、中には上記のケースを複数持っている場合もあり、ひとりで理想的な発声方法を見つけることはほぼほぼ難しいと思っています。そのため、一度ヴォイストレーナーに客観的に見てもらって、ケアしながら過ごしていくのが喉には一番良いと思います。


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清水ブルー先生のコメント
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正しい発声=いい歌かというと、それは必ずしもイコールではありません。ベテランの方々や声優さんも、魅力のある方はちょっと変わった特徴的な声を出していますよね。正しい発声をさせると、その特徴がなくなってしまう可能性もあるんです。そのため“その人の声の魅力を失わない状態で健康的な声を出す”ことを重視したレッスンをしています。


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【インタビュー】MORISAKI WIN(森崎ウィン)、2ndアルバム『BAGGAGE』と独自のヴォーカルケアを語る。“楽曲のゴールまでの地図を描く「マッピング作業」を経て”
https://vocalmagazine.jp/interview/release/230425_morisaki-win/

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