関取花

【インタビュー】関取 花 自主レーベルを設立後、初のアルバム『わるくない』に刻んだ想いと、張らない声の説得力。

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web) 写真:高田 梓

口角上げて歌うか、半分ぐらいにするかでニュアンスが変わる

──3曲目は「いつかね」です。少しカントリー風味もある軽やかなビートで、多幸感のある楽曲ですよね。前の2曲を集中して聴いたあとだけに、特にリラックスして聴けました(笑)。声もこっちは暖色系というか黄色とか明るい緑なのかな、みたいな。

関取 そうですね。ちょっと温かい感じ。

──発声面など、歌い方もやっぱり変えていますか?

関取 発声を変えるというよりは、歌うときの表情をクッと上げる感じ、ちょっと笑ってるような感じで歌いました。

──以前のインタビューで語っていた、口角を上げて歌うってことですか?

関取 はい。そんな感じですけど、たぶん今までよりはそんな上げてないとは思います。この曲も、《いつかね》って言いながら、「こんなことしたいな、あんなことしたいね」って言ってるけど「本当にできるのかな」っていう……。その要素もちょっと残しておきたい部分はあって。それが口角上げて歌うか、半分ぐらいの口角にするかで伝わるニュアンスが変わってくるだろうなと、歌入れのときに自分で聴きながら思ったんですよ。

ここ数年の作品みたいに口角をクッと上げて歌うと、「あのさぁ、あのさぁ、いつかさぁ、絶対行こうね!」みたいな感じになるんですけど、半分ぐらいにすると、もうちょっとこう切なさっていうか、「いつか行けたらいいよね」みたいな感覚。実際「タイミング来たらね」って言って、本当に実現するときもあるし、そのままナアナアになっちゃうこともある。でも、それも含めて愛しいなっていう感じは出したかったですね。

──ライン川のほとりとか、ドイツで育った関取さんの原風景ですよね。通り道に野うさぎはいるんですか?

関取 いました、通学路に。ピョーンてピーターラビットみたいなのが(笑)。

──《雨宿りをしたバス停》という歌詞がありますが、《バス停》って体言止めのメロディは歌うのが難しいだろうなと思いました。

関取 そうですね。最初に作ったデモのとき、《バス停》の《てい》まで歌えなくて、何回やっても《雨宿りをしたバースデー》にずっと聴こえて(笑)。私は譜割でそんなに難しいものを作ったりしないので、そういう悩みは今まであまりなかったんですけど、それこそ自由度高く書くと「なんか、こうなるんだ……」ってなりました。

──続いて「空飛ぶリリー」で、《恋をしてしまえよ》と友達の背中を押すような歌です。これは、「いつかね」より口角的には上げましたか?

関取 もう少し上げました(笑)。「いつかね」はやっぱり私の話だけど、こっちは「君に言う曲」なんで、良い意味で無責任になれるじゃないですか、人って。だからクッと上げてもいいかなっていう感じですね。自分の話のときにめっちゃクッと上げると、ちょっとわざとらしいかなと思っちゃうんですが、友達にだったら全力で「本当にそう思うよ!」みたいな。そんな気分でもうちょっと口角を上げて歌います。

──実際のお友達を想像して?

関取 そうですね。私から見たらすごく可愛くて綺麗で頑張ってて……みたいな子が、実はすごく自信がないみたいなことって、年齢を重ねると表にも出さなくなるじゃないですか。10代とか20代の頃って、「いや、ホント自分無理、ホントやだ」みたいに言えるんですけど(笑)。二人でご飯食べに行ったりとかしたときに、フッとそういう話を聞いたりするタイミングがちょこちょこあって。「なんで?」って思うんですよ。「こんなにあなた素敵なのに」って本当に思って書きました。

──この曲を聴いた友達さん、嬉しいでしょうね。でもこれ、女性特有の感覚ですよね。なかなか男友達にはないです。

関取 そうかもしれないですね。

──「お前、カッコいいから大丈夫だよ」とか励まさない(笑)。

関取 たしかに。女の子同士は全然言いますからね。私は特に言うほうなんですけど。

──でも、すごく幸せになる曲ですね。

関取 嬉しいです。

──5曲目が「安心したい」ですね。僕の直感で違ってたら申し訳ないのですが、ザ・イエローモンキーの吉井和哉さんを思い起こさせました。女・吉井和哉だなと。

関取 わぁ〜、嬉しいです。でもサウンドがそういう感じだからかも。

──そう。グラムロックっぽいバンドのサウンドに引っ張られて面もあったと思うんですけど、メロの歌い方というか……。

関取 ああ、マイナーコードの使い方とか……。

──たぶんスケールの感覚なのか、ドロッとしている中で光を探してるんです!みたいな。

関取 すべて繋がってくるんですけど、ここでゴールだと定めていたつもりのものを手に入れたら、なんか、違う。そういうドロっとした部分も経験を重ねないと書けなかったと思います。この不穏さで実は完全に自分に選択権がある。その先をだらだら続けていくのか、いやもうスパッとやめるか、でもめっちゃ勇気いる。なぜなら、ここまでこんなに頑張って続けてきたものを一回ゼロにするのは若い頃よりしんどいから。そういう不穏さ、違和感と向き合うっていうのは自分の中でここ1、2年ぐらいテーマにしていて。そういうポイントで書いてきた曲ではありますね。

──ギターソロ明けのヴァース部分が、一番ドキッとさせられます。

関取 いや、そうですね。ここのために!ぐらいの(笑)。

──皆さんにもぜひドキッとしてほしいです。

関取 わたし的にはハイライト場面はそこです。

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