取材・文:後藤寛子
八上和希、GUCCHI、NOWAR The 匠、アマノからなる4人組ヴォーカルグループ、OverTone。大阪で結成し、2022年にメジャーデビューを果たした彼らが、ミニアルバム『花だより』をリリースする。4人のハーモニーを堪能できる「CIRCLE」で幕を開け、バラード「最初で最後の」やアップテンポな「めくるめく」、今の季節にぴったりな卒業ソング「僕らの街」など、OverToneの多彩な表現力が詰まった1枚だ。
その多彩さは、4人それぞれの個性を活かしながら、曲によってリードヴォーカルやハモる組み合わせを変えられる柔軟性にある。しっとりと歌いあげたり、全員で力強く合唱したり、ジャンルに縛られない自由さは、自分たちの力と試行錯誤でここまで歩んできたからこそだ。
結成の経緯やルーツから、ハーモニーへのこだわり、『花だより』での挑戦まで、4人にじっくり語ってもらった。
最初から「誰かがリードヴォーカル」みたいな考えはなかった(GUCCHI)
──それぞれソロでの活動を経て、OverToneを結成したんですか?
八上和希 そうですね。僕と匠とGUCCHIはソロやユニットで活動していて、路上ライブやライブハウスで仲良くなったんです。その後、それぞれが解散してこれからどうしようかとなったときに、先輩であるベリーグッドマンのRoverさんに「3人でやってみれば?」と言っていただいて。アマノは僕の中学校からの同級生なんですけど、ちょうどそのタイミングで就職活動をしていて、「やっぱり音楽の道に進みたい」ということで合流して4人になりました。
──みなさんが音楽を始めたきっかけや、ルーツであるアーティストは?
八上 僕は、EXILEやGReeeeN、清水翔太さんとかですね。
NOWAR The匠 僕も八上と近いです。学生時代にEXILEや清水翔太さんがすごく流行っていて、カラオケで歌ったらモテるということもあり(笑)、憧れていたので影響を受けていると思います。
GUCCHI 最初はコブクロにドハマりして、歌うことが好きになりました。そこからいろいろと聴いていくうちにだいたい一緒のところを辿っていったので、わりとみんな近い音楽が好きなイメージではありますね。
アマノ 僕は音楽を聴き始めたのが小学生の頃やったと思うんですけど、兄の影響もあってORANGE RANGEやB’z、GLAYなどのバンド系が多かったです。
──いざグループでの活動を開始して、どういうふうに4人のバランスや役割を考えていったんですか?
GUCCHI 最初から「誰かがリードヴォーカル」みたいな考えはなかったですね。僕らの時代で言うと、FUNKY MONKEY BΛBY’SやGReeeeNのような、みんなで歌うヴォーカルグループのイメージもあったし。やっていく中でそれぞれの個性や得意分野が見えてきて、いろいろ形が変わってきました。
──今、4人それぞれの声の特徴や役割を説明していただくと?
八上 まず、アマノは誰の声も絶対に邪魔しないような、川のせせらぎみたいな声をしているので、誰がメインヴォーカルでも、アマノのハモリやったら絶対に良いバランスになるんです。GUCCHIは響いてくる低音だから、メインのオクターブ下を歌うことが多いですね。僕と匠くんのどちらかがメインヴォーカルになって、もう片方が下ハモを歌う感じです。
──作曲はGUCCHIさんがおもに担当していますが、歌のパートの割り振りは作曲の段階で決めるんですか?
GUCCHI 作る段階で決めるときのほうが多いんですけど、曲によってはできあがってから「どうやって分けよう?」と悩むこともあります。初期は八上がメインを歌うことが多かったけど、最近はそのスタイルをちょっと崩し始めてもいいんじゃないか?というマインドも出てきていて。それこそ今回の『花だより』では、匠くんやアマノがメインを歌う場所も作りました。いろいろ試しながら考えていますね。
──そこは「俺が俺が」と競い合う感じではないんですね。
GUCCHI 「俺が俺が」な雰囲気は、1年目くらいでまったくなくなりましたね(笑)。最初はちょっとあったんですけど、やっぱり4人の組み合わせを考えるほうが楽しいので。
匠 そういう意味では、僕はもともと高音パートに憧れがあったんですけど、高いキーが出せなくて、ハイトーンは八上とアマノに任せるようになりました。他の3人が特徴的な声なので、埋もれないように、高さ以外で自分の個性を突き詰めた結果、今に至ります。
──高音ヴォーカルに憧れがあったんですか?
匠 憧れてましたね。八上の高音はすごいなと思っていますし、未だに羨ましい(笑)。ただ、最近八上とアマノがメインヴォーカルになると、全体的な曲のキーが上がるんですよ。僕が歌う平歌やヴァースの部分もいつもよりキーが上がるので、『花だより』のレコーディングはなかなか大変でした。
八上 僕もできるだけ上げてほしくはないんですけどね(笑)。余裕みたいな感じになってるけど、高い声はけっこうシンドいと思いながら歌ってますから。
──最近の曲はキーが高い曲が多いですからね。トレンドとして意識することもありますか?
GUCCHI そうですね。まわりで流行っている曲にハイトーンの曲が多いので、「出せるんやったらやってみようよ」という発想になっちゃいます。
──ちなみに、同世代のハイトーンヴォーカリストで気になる方はいますか?
八上 Mrs. GREEN APPLEの大森(元貴)さん、Novelbrightの竹中(雄大)さん、Official髭男dismの藤原(聡)さんとか……どう声を出してるのか研究したいです。
──ご自身のミックスヴォイスは自然とできたんですか?
八上 特に意識せず、ただ出しやすい高い音を考えていたら行き着きました。僕の感覚としては、笑い声と歌声は似てるのかなって。僕、笑うときは声を張り上げて笑うんですよ。その発声に近い気がします。あと、匠くんが僕の高音を伸ばしてくれた説はあります。去年TikTokでいろんな歌を歌ったりしたんですけど、普段僕が歌わない曲を匠くんが提案してくれて。Adoさんの「私は最強」とか、いろんな曲を歌えるように試行錯誤を繰り返していたら、高い声が出るようになりました。
きれいにハモれると、耳元で空気がビリビリ震えるような感覚になる(アマノ)
──ヴォイストレーニングに通った経験などはあるんですか?
GUCCHI 僕だけ、昔4年ほど通ったことがあります。でも、結論として「感覚やな」と思って。習ったことは知識として持っていつつ、まったく意識せず歌ってますね。
──みなさんご自身で磨いてきた声なんですね。4人のハーモニーを作るうえでこだわっているところはありますか。
八上 僕がメインヴォーカルの曲をライブでやるとき、僕のピッチやリズムがズレたら全部が台無しになってしまうので。曲によっては勢いを大事にする曲もあるんですけど、コーラスをしっかり聴いてもらう曲はちゃんと丁寧に歌うように心がけています。
アマノ 僕はハモることが多いので、バランスを意識します。全員の声のバランスが取れてきれいにハモれているときって、耳元で空気がビリビリっと震えるような感覚になるんです。感覚的にそれを目指して歌ってますね。
八上 その感覚、わかる!
GUCCHI 僕は1オクターブ下を歌うことが多いので、音程だけじゃなく、低音の鳴りを大切にしていますね。それこそボイトレで習ったんですけど、低音は胸の下のほうで響かせるイメージらしく、そこは意識しています。ひとりで歌うときはパッションが一番大事やと思うから、あんまり何も考えずに、使い分けてます。
匠 僕もサビでハモることのほうが多いので、メインの邪魔にならないように、いかに溶け込めるかは考えますね。逆に、メインで歌うときは自分が前に出ないと他も出られないので、前に出ることを意識します。
──ほかに、ハモるときに大切にしてることはあります?
八上 結局、ハモりで一番大事なのは声色やと思います。空気多めでハモるのか、強めにハモるのか、しっかり歌い分けることが聴き心地につながるんじゃないかな。僕らも、曲ごとにレコーディングで詰めて考えています。
アマノ ニュアンスをメインに合わせるイメージですね。メインが熱く強く歌ってる曲に対して、空気を多めに含んだ優しいコーラスでハモってしまうと浮いてしまうので。