【インタビュー】関取 花、「迷いがまったくなく歌えた」。自信作のEPを形づくったさまざまな気づきを振り返る

2023.11.25

取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)

レコーディングでは迷いがまったくなく歌えた

──ここからは最新EPについて聞かせてください。『メモリーちゃんズ』は「メモリーちゃん」、「ナナ」、「すきのうた」といった新作だけでなく、「障子の穴から」、「明大前」のライブ音源や「おまけMC」も入っていて、聴きごたえたっぷりな作品となっています。関取さんにとってどんな1枚になりましたか?

関取 いやぁ、もう、めっちゃ好きですね、なんかイチファン、イチ音楽好きな人間として「うわ〜めっちゃ良い作品だな」って思います。曲のバランスも良いし、特に新曲とか直接的な表現はそんなにしていないのに、何となく私がどんな感じの人っていうのがわかる。その感じがすごく自分の理想とする形だったので、良い作品になったなって思いますね。

──歌唱の面で特に思い出されることはありますか?

関取 (レコーディングが)とにかく早かったですね。新曲3曲で言うと歴代最速ぐらいな感じで、「メモリーちゃん」と「ナナ」は2テイクずつしか歌ってないんじゃないかな。しかも基本、ほぼ直していないのではという気がしています。今回は演奏人との相性が単純にすごく良くて、自分の歌のうしろで鳴っていてほしいメロディが常に聴こえている状態だったので、地に足がついて迷いがまったくなく歌えましたね。

──「メモリーちゃん」はドラマ『カメラ、はじめてもいいですか?』主題歌として書き下ろされた爽やかな1曲です。タイトルに「ちゃん」が付いているところもかわいらしいですね。

関取 単純にかわいいから付けたっていうのが一番の理由なんですけど(笑)、「メモリー」だけだとちょっとなぁって感じもあったし、まだ心の中にきゅってあるかわいらしい思い出というか。

──リリース時に「実際にたくさんの写真を眺めながら作った」とコメントされていましたが、写真を見てどんな気持ちが湧いてきましたか?

関取 もうなんか「愛おしいなぁ」って。よく遊ぶ友達がいて、私もその子もSNSとかにあんまり写真をアップするタイプじゃないので、見せる用じゃない、本当にただ撮って見るだけの写真なんです。公園に行ってしゃべってるときにカシャッと撮るみたいな。そういうのを見てると「ああ、この日晴れてたな」とか「この日そういえば蚊めっちゃいたな」とか、そういう思い出がワーッとあふれてきて、なんか意味とか必要ないんだよなって思ったりして。「あったな」だけの歌を作ろうって思ったんですよね。

──サビの《昨日のことみたいに思い出す》といったきれいなファルセットのパートも印象的です。メロディは自然と浮かんできたのでしょうか?

関取 そうですね。あんまり考えないで作れたので、ギターを持って歌ったら勝手に出てきたメロディという感じです。

──瑞々しいエレキギターの音色など、作曲の段階から他の楽器が鳴っているイメージはありましたか?

関取 「メモリーちゃん」に関しては最初からエレキギターは欲しいなと思っていて。でもドラマの主題歌で書き下ろしたので、どちらかと言うとドラマの雰囲気に引っ張られてという感じですね。放送前に少し映像を見せていただいて、高校生の女の子の話だったので、いなたすぎないキラキラしたフレッシュな感じが欲しいから、エレキギター入れたいなとは思ってましたね。

子供たちの言葉にすごくハッとした

──「ナナ」はフォトグラファー大畑陽子さんの写真集「Nana」からインスピレーションを受けて制作されたとのことで、“写真”という点は「メモリーちゃん」との共通点にも感じましたが、そこはたまたま?

関取 あっ、確かに。でもたまたまですね。

──ポップス・ナンバーにマッチしたキラッと明るい歌声が印象的です。特に意識したポイントはありますか?

関取 実は「ナナ」も弾き語りのデモだともうちょっと落ち着いた歌い方というか、そこまで元気ハツラツな感じではなかったんです。プリプロでの仮歌もここまで元気な感じじゃなかったんですけど、今回のメンバーは相性が良かったのもあって、完全に固まった状態でレコーディングに行けたんです。レコーディングの日にみんながちゃんと自信を持って演奏してると、やっぱりプリプロのときとは違うものになるんですよね。それにつられて自分も「あ、ここに前みたいな歌をハメちゃうと合わないな」とか思ったりして、自然とサウンドにつられるように歌えましたね。

──続く「すきのうた」はTBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』内コーナー『ふらっとキッズお茶会』がきっかけで生まれた曲だそうですね。子供たちとの触れ合いを通してどんな発見がありましたか?

関取 いや〜もうなんか、ありすぎるんですけど……(笑)。ふらっとお茶会ってテーマを決めないで、お茶飲みながら本当にただ話を聞くんですよ。「最近さぁ、夏休みどこ行ったの?」って。すごく印象的だったのは、小学校1、2年生ぐらいの男の子ふたりとのお茶会のときに、「大きくなったらさ、何になりたい?」って聞いたら、ひとりの子が「前は警察官とかサッカー選手とかいろいろあったけど、いろいろありすぎてわかんなくなっちゃった」みたいなことを言ったんです。そしたらもうひとりの子が「でもさ、なりたいものがいっぱいあるってことは、何にでもなれるってことなんだよ」って言ったんです! え、泣いても良いですか?みたいな(笑)。すごくないですか?……ああ、でもそうだよな、子供の頃ってそうだったじゃんって思って。諦めなかったらなれたかもしれない夢って無限にあったよなとか、いろんなこと考えないで心のままに言ってたじゃないですか。すごくハッとして。

──たしかに、たしかに。

関取 それとちょっと年上の女の子に「好きな子いるの?」って聞いたんです。そしたらハッキリちゃんと「いる!」って言って。「そんなこと言っちゃっていいの?」って聞いたら「いいの!」と。誰かを好きなことをちゃんと言えるのってめっちゃカッコいいなと思って。

他にも、オリジナルのキャラクターを描いてる子に「見たい」って言ったらすぐ描いてくれたり。意外と大人になって、「ギター弾いてよ」とか言われても「いや、全然聴かせるほどのことじゃないんで……」って謙遜する空気とか、なんかあるじゃないですか。でも子供たちは「好き」っていうものをすぐ言葉にしたり、「見てほしい」とか「教えたい」とか、そういう前のめりな気持ちがすごく素敵だなと思って。大事なものにたくさん気づかされた感じがして、気づいたら(曲が)できてたみたいな感覚ですね。

──この曲が弾き語りというのも、息遣いがよく聴こえたり、温かい世界観を引き立てています。

関取 本当に完全な一発録りで、いわゆるクリックとかを聴いていないので修正できないんですよね。ギターのマイクとヴォーカルのマイクも両方立てちゃってるので、どっちかだけ直したいと思っても音が入っちゃってたりするので、ホントに一発でつるっと成功しないとっていう状態で録ったんです。

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