【インタビュー】高橋 優、“今までで一番自由に歌った”、“のびのび作れた”というニューアルバム『ReLOVE & RePEACE』全曲について訊く!

2022.10.2

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
写真:松井 伴実

幻かもしれないけど、いや幻じゃないかもよっていうような一瞬を歌に込めたい

──恐れ入ります(笑)。続いて「勿忘草」はピアノとストリングスがとても美しい曲ですけれど、これは高橋さんがある程度アレンジの土台を作っていった1曲ですか?

高橋 この曲はそうですね。去年の春頃に書いてたんですけど、叩きでパソコン上で音にしてみんなに聴いてもらったら、すごくスタッフ票が厚くて。それでアルバムに先駆けてデジタル配信もやる流れになりました。

──これはギターで作った曲をピアノに置き換えて?

高橋 アレンジはそうですね。最初に僕が叩きで作ったときはアコギで作ってました。

──Aメロの歌でとても低い音域を使うじゃないですか。なかなか勇気のある作り方というか、“えっ、そこまで下げるのか!”と思ったんですけど、これは自然にここまで低い音を使った感じでしたか?

高橋 部屋で作ったからですかね(笑)。まあでも、最終的にはちゃんと音程が上がってくるんですけど。そんなに低い音程で作ろうって思ってたわけではないんですが、そこから始まって盛り上がっていく展開のほうには、ずっと意識が向いてましたけどね。

──サビから作ってAメロを組み合わせたわけではない?

高橋 Aメロから作りましたね。この曲はわりとシステマティックに作ったんですよ。メロディを先に作って録音しておいたやつを、あとでまたちょっと客観的に聴いて、それに合うちょっと心地のいい言葉を探していきながら書いていきました。自分の中での風景みたいなものを当てはめて書いていったんで、ちゃんと計画的にできたほうの曲です。「あいのうた」みたいに本当に突発的に作っちゃうときもあるんですけどね。

──歌詞からすると亡くなった方の姿が想像できるんですけども、実体験に近い? いや、その辺はあんまり触れないほうがいいですね。

高橋 そうですね。(聴く人の判断に)お任せが一番ありがたくって。ただ、そういう“人の生きる、死ぬ”っていうことを考えない日はないってことと、自分自身がそれに思いのほか隣り合わせで誰しもが生きてるんじゃないかなって思ってる部分……。あとは循環してることと思えば、“死は終わりじゃない”というか。例えばもう会えなくなった人が、今どうしてるかわからないけど想像してみたり、何となくその人を感じることはあると思うんですよ。ふと吹いた風の中に、“あれ、なんか今あの人がいて笑ってた気がする”とかってよく映画とかでもあるじゃないですか。なんかそういう尊い一瞬……幻かもしれないけど、いや幻じゃないかもよっていうような一瞬を歌に込めたいなっていうところが、この曲の始まりですね。

──今の話を聞いてから曲をもう一回じっくり味わいたいです。次は「I LIVE YOU」で、とても軽やかな感じの曲ですけど、どういうイメージでしたか?

高橋 ここ最近よく息抜きでドライブするようになったんです。今までは自転車が多かったんで、車で見る景色って今まで僕の中に全然なくて……。ドライブしてる車内っていろいろ考え事ができたりとかするんで、その中から景色が出てきたっていう曲ですね。

──クルマに乗ると、自転車とはまた違う考えが浮かびますか?

高橋 全然違いますね。自転車のときってあまり余裕がないというか、クルマからも歩行者からも嫌われてるじゃないですか、自転車って(笑)。僕は率先して自転車大好きなんですけど。めっちゃ乗るんですけど、車に乗るようになったら全然違う。それこそ車道の景色ってクルマに乗らないと見られないじゃないですか。スピード感とか車窓から見える景色とか。山手通りとかの自分の個人的な思い出とか……。まあ自分のって限定しちゃうとすごく寂しいんですけど、例えば誰かとの思い出とか未来とかも考えてて、この曲は“再会”ってことをテーマに書いています。あと「I LIVE U」っていう生配信をファンクラブ内でやってて、それを今回タイトルにしたいなっていうのもありました。レコーディングの途中までは違うタイトルでと思ってたんですが、「I LIVE YOU」っていうふうにさせてもらったのはそういう意図もありました。

──ちなみに、クルマの中ではオーディオってかけてるんですか?

高橋 運転中メッチャ音楽はかけますね。最近、友川カズキさんばっかり聴いてます。秋田弁で、それこそ“人の生き死に”を歌う伝説のフォークシンガー。それを爆音でかけて自分も歌って……。ガソリンスタンドで歌ってるか歌ってないかわかんないヘンなゾーンに入っちゃって、歌ったまま外に出たことがあって、すごく恥ずかしかった(笑)。

──ハハハ。次は「forever girl」です。これは実験的な歌詞だなと感じた部分もあって、同じ歌詞とフレーズを繰り返しで使うところが多いじゃないですか。具体的に言うとサビ前の《さぁ次の段取りを把握せぬままに向かう》と《台本もないままにあの大舞台でさらう》です。サビなどでこういうテクニックはあると思うんですけど、ちょっと長めのフレーズを2回繰り返すのは珍しいなと。これは意図があって?

高橋 はい、もちろんそれは意図があってやってますね。

──この長さだと、普通ちょっと変えたくなるじゃないですか。そうではなくて、やっぱり強調したい言葉だった?

高橋 そう。おっしゃる通りで、「明日はきっといい日になる」のあたりで僕がすごく勉強させてもらったことなんですけど、それまでは2回同じメロディラインがあったら別のことを言わないといけないとか、1番と2番があったら全然違う内容にしないとダメだって勝手に思ってた部分があったんです。でも一方では、耳馴染みの良い言葉を繰り返してあげるほうが、曲としては口ずさみやすかったりするっていうことを教えてもらったことがあって。それで「明日はきっといい日になる」という曲を書いていたあたりでは、わりと後者のタイプで他にも書いてたんですよ。そうしたらね、やっぱりいろんな皆さんに歌ってもらう機会をたくさん拝見させてもらって……。だってデビュー当時の「素晴らしき日常」とか「こどものうた」とか、自分以外で歌ってる人を見たことないですからね(笑)。でも、「明日はきっといい日になる」は自分以外のいろんな人が歌ってるなって思ったときに、あえて繰り返すとか、メロディと日本語をひとつのリズム感として捉えるというか、そういうのも面白いなと思ったんですよね。

──面白い+人の心に刺さる方法論ではあるってことなんですね。

高橋 そうですね。今回のアルバムはあんまり文章で意識することはできるだけ避けてるんですけど、文章でもしゃべってても“本当にすごくそれが必要なんです”って言った人がいて、間を空けてもう1回“どうしてもそれが必要なんです”って同じこと言ったら、メッチャそれ欲しいんだなとか、必要なんだろうなって2回繰り返すことで感じるじゃないですか。なんかそういう役目も果たしてくれるのかなって。

──単純だけど一番強い主張になりますね。この曲はほかにも全体で韻を踏んでる箇所も多いし、ダブルミーニングがあったりと言葉使いがすごく楽しい曲だなと感じました。続いて「沈黙の合図」。これはまた毛色が違って、かなり俯瞰した歌詞じゃないですか。マッチングアプリで出会ったばかりの男女を描いてらっしゃるとお見受けしたんですけど、歌詞カードでも男性と女性で分けて書かれてる……ということは歌い方もそうなのかな?と思ったら歌い方はそこまで変えていない。

高橋 実はちょっと変えてます。音楽ライターさんによっては“演じられてましたね”みたいなことを言われましたけどね(笑)。

──そうでしたか。僕は演じるまでは感じ取れなかったんですけど、部分的にツインヴォーカルにしてる意味をやっぱり聴きたいなと思っています。

高橋 最初はスタッフからファルセットというかオクターブ上を女性にしようみたいなアイデアが出たんですけど、それを僕は嫌だと言って自分の声でやらしてもらったんですよね。

──そのまま女性っぽい声を当てるっていうのは……。

高橋 まだ僕の中ではNGというか……。“いや、自分の声で歌う”ってやりましたね。

──ということは、オクターブ上の声は高橋さんの中ではやっぱり女性の立場の人?

高橋 たぶんスタッフはそうだったんです。そういう意図でオクターブ上を入れたいと言ったんでしょうけど、僕が部屋でひとりで作った叩きの段階からオクターブ上を入れてたのは人数感が欲しいと思っただけです。これを歌ってるのはあくまで男性の僕なので、女性の気持ちってのは100%わからないと思ったんですよ。ただ、どこかにちょっとだけ女性とまではいかないけど、女性の気持ちに寄り添おうとしている存在があったらいいなと思ったんですよね。

──うわ、入り組んでますね。

高橋 それでオクターブ上を入れて、あとオクターブ下の影となるものを入れて、ちょっと多重人格……表情の違う声が入っていたいなっていうのは、あったんですよね。

──なるほど〜。そのオクターブ上が歌詞の男性女性パートに関係なく入ってくるじゃないですか。この辺もなぜだろう?とちょっと気になったんですけど、歌詞にベタベタにくっついていくアレンジは高橋さんとしては“やっぱり違うな”っていうことだったんですね。

高橋 そうですね。歌詞の中で完結してるものがあるので、それを聴いてもらえさえすれば、そんなに“音でここを鳴らして”ってとこまで行かなくてもいいかなって。トゥーマッチになっちゃうと、この曲のテーマが盛り上げきらないというか。声からバーンってやっちゃいたくなるところはやらない、うまくいかない女性関係みたいに……。

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