取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine Web)
写真:松井 伴実
9月に3年ぶりの開催となった自身主催の野外音楽フェス『秋田CARAVAN MUSIC FES 2022』を成功させたばかりの高橋 優が、10月5日(水)に8作目となるオリジナル・ニューアルバム『ReLOVE & RePEACE』をリリースする。
“視野を広めてのびのび作れた”と語る全12曲は、自らDAWを操ってアレンジの叩きを作った楽曲も多く、原曲段階より1曲1曲に明確な方向性を持って制作された。その反面、メロディラインや歌詞といった部分では自由なマインドと柔軟な発想が活かされている。
終盤には発声についての考えなども披露される【ヴォーカリスト高橋 優】が堪能できるロングインタビュー、撮り下ろしショットと合わせて、お楽しみください。
またインタビュー終了後に素敵なプレゼントがありますので、最後までチェック!
メロディについては“自由に歌いたい”ってずっと思ってるんです
──前作『PERSONALITY』から今作の『ReLOVE & RePEACE』までの2年間、曲作りにおける気持ちの面で、前作までと何か違ったことはありますか?
高橋 全然違いましたね。前作のときは、わりとひとりの人に当てて、マンツーマンを意識して書いた曲が多かったんです。今回の制作はどっちかと言うともっと自由に、相対する誰かというよりは、景色とか人とか情勢とか世の中とか……いろんなことに視野を広めることができた。そこに関しては前よりも遊び心があるし、のびのび作れた気がしてます。
──アルバムの方向性を決めるにあたって、今作の軸となる曲は何でしたか?
高橋 「雪の筆跡」を作ったときは、スタッフのみんなに聞いてもらう際に、“推し曲”みたいな感じで出しましたね。自分の中で次なる代表曲になってもいいぐらいの感じ。今は12曲のどれもそう思ってるんですけど、いろいろ書き出していく中で、「雪の筆跡」はみんなに聴いてもらいたいなってことは伝えました。
──タイトルに通じる部分で言えば、1曲目が「あいのうた」=LOVEで、最後の曲が「Piece」です。「Piece」は綴りも言葉の意味も違うけど「PEACE」と響きは同じ。こういったコンセプトはいつぐらいに考えましたか?
高橋 今年の7月ぐらいですね。アルバムの制作真っ只中って感じで、タイトルも仕上げなきゃいけない締め切りがあって。いくつか考えたんですけど、この『ReLOVE & RePEACE』っていう言葉が出てきて。曲順とかもそのあとに決まっていきましたね。
──アルバムの新曲となる楽曲を集中的に書いてたのはいつ頃ですか?
高橋 今年の5月、6月に入ってからですね。
──意外と遅かったんですね。そこからアレンジをしていったと思いますが、今回アレンジ面で新しく試みたことはありましたか?
高橋 アレンジの叩きを自分で作るっていうことをやりました。今までそれこそゼロから、カセットテープで録ったみたいな弾き語りのデモだけを編曲家の人に聴いてもらって、リズムパターンも何もかもお願いしていた感じだったんですけど、今回はできる限り自分の中でリズムパターンとかギターリフとか、こういう音が鳴ってたらいいなっていうものを作ったんです。本当にざっくりストリングスとかを入れてから聴いてもらうっていうのは、前回よりはだいぶ違う部分かなと思います。
──高橋さんは、DAWソフトは何を使っているんですか?
高橋 Logicです。
──できたラフは、わりときっちりしたデモですか?
高橋 今聴いたら全然雑ですけど、“こんなリフが鳴っていたらいいな”とか、イメージだけでも伝わればって感じですね。弾き語りだけだとけっこう激しく弾いてもゆっくりした曲に聴こえちゃったりとか、なんか自分の中で拍を取ってるつもりでも、音だけ聴いてると(ビート感が)わかんないときがあって。だからあえてパーカッションみたいな音で16ビートを細かく入れたり、逆に全然違うやつを入れて、ゆっくりしたテンポにしたりしました。編曲家さんとしっかりイメージを共有するためですね。
──それがすごく今回のアルバムに活きているのか、意図を感じるアレンジがいっぱいあると感じました。まず「あいのうた」ですね。もちろん歌詞がすごく強い曲なんですけど、さっきおっしゃったようにビートが僕は一番印象に残ったんです。アフリカ的というか生命のリズムを感じさせる音だなと。頭打ち感がすごくあるというか。この曲に関してはそういうアレンジの意識はありましたか?
高橋 自分の中で頭打ちブームは来てるかもしれません。これまで、わりと裏打ちが多かったので。僕、けっこう民謡とかを聴いて育ったんです、秋田民謡とか。それはどっかに影響があるでしょうね。
──頭打ちってベタな印象になりがちだけど、そこに新鮮なビート感があって、すごく印象的なリズムだなと思います。これはギター弾き語りのときから意図していたことですか?
高橋 この曲はわりと即興みたいに作ったんですよ。ジャカジャカジャカって歌って弾いて、そのまま出てきた言葉を録音して。それをあとでちゃんと整理してから編曲家の人に送って仕上げてもらったんですけど、最初はけっこう難航しましたね。もうちょっとゆっくりした曲になっちゃいそうになったりもして。何度かやりとりする中で、アコギの音から始めたいとか、どこでドラムの音が入るかっていうのもけっこう細かくリクエストさせてもらいました。おおよそ形になってから他のスタッフにも共有して聴いてもらって。だいぶわがままを言って今の形になりましたね。作ったときから、1曲目にしようかなという思いは、なんかありました。
──続く「STAND BY ME!!!!」は、すごくメロディが自由だなって思いました。決まった譜割りがあるようでないような……。“その枠の中のメロディは自由だ”くらいの印象を受けたんですけど、原曲の時点では歌詞がある程度ついていたんですか?
高橋 この曲は(歌詞が)ありましたね。もしかしたらアレンジとかを自分でやらずに弾き語りで出したのかな? ちょっと記憶が曖昧になっちゃったんですけど。去年の春頃に書いていたワンコーラスがあって、“この曲いいね”と改めてなったので、今年の5月〜6月ぐらいにフルコーラスを作りました。譜割りとかは去年書いたときと変わってないです。メロディについては“自由に歌いたい”ってずっと思ってるんです。音符に起こしていくと言葉と音符ってひとつずつ載るじゃないですか。そっちのほうから作っちゃってたら、確かにこの曲はできづらいかもしれないですね。
──譜面にすると全部違うから、採譜者を泣かせるタイプのメロディというか……。
高橋 あー、そうですよね。カラオケとか行くとガイドメロディってあるじゃないですか。それで言うと忠実に再現してるのってあんまりないんですよね。“あれ? こんなメロディだっけ?”みたいな。もしかしたらこれもそうなっちゃう曲かもしれないですね。
──歌い方にもすごくアドリブ感がありますが、わりと決めてからレコーディングしている感じですか?
高橋 そうですね。意外とこの曲は作ったものを忠実に表現してる感じですかね。
──意外ですね。でもすごくラフに聴こえて、そこがカッコいいです。
高橋 普通メロディに対して真面目に日本語とか言葉になるものを入れなければって思うところを、最近はちょっと遊び心を入れたら面白いなと感じていて。ライブで早く表現したいなって思いますね。
──「HIGH FIVE」については前回のインタビューで詳しく聞かせていただいたので、そちらを見ていただくとして。このアルバムにおいて3曲目に持ってきた意図は?
高橋 最初に激しい2曲が来たので、僕の中では「Piece」か「HIGH FIVE」で行きたいなと思っていたんですよ。そうしたらスタッフの一人が、“1曲目を「あいのうた」にして最後の曲を「Piece」にすると、ラブ&ピースの意味合いが……”。みたいなちょっとニクイことを言ってくれたんです。それを僕は最後まで悩んで、その人の言う通りに「Piece」を最後にしようと決めました。普通に聴いてみたら「HIGH FIVE」が一番気持ち良かったっていうのもあって、それで3曲目を「HIGH FIVE」にした感じですね。
──じゃあ、僕と同じ考えで最後に“ピース!「Piece」”と言った方がいらっしゃったんですね!
高橋 そうそう。だからそれを最初に言い当てられたから、さすが!って思って(笑)。