取材・文:鈴木瑞穂(Vocal Magazine Web)
8月17日、意思を持つ2体のマネキンRiRiとLuLa によるフィメール・ラップ・デュオ=FEMMが、EP『THE SIX』をリリースした。
代表曲の「Fxxk Boyz Get Money」の攻撃的なリリックとロボティックなダンスパフォーマンスが海外でも話題になるなど、高い評価を受けてきたFEMM。そんな彼女たちは2020年、機械仕掛けの“FEMM 1.0”から、よりエモーショナルな表現を可能とする“FEMM 2.0”へとアップデートを遂げている。
より“人”へと接近した彼女たちが向き合う今作での歌表現とは、どのようなものなのだろうか。新しい扉を開いたFEMMの現在地について、“歌”という側面から紐解いていく。
感情が育ってきた今は、自分たちで伝えたいことや表現したいことが増えてきた(RiRi)
──まずはふたりの歌の変遷から聞かせてください。音楽活動をスタートして、1.0、2.0とアップデートを重ね進化を遂げてきましたが、活動をスタートした当初は歌でどんなことを届けていきたいと考えていましたか?
RiRi 私たちはマネキンなので、“マネキンと人間がより良く共存できる世界”を目指して、メッセージを発信していこうと考えていて。歌やダンスは言葉がわからなくても通じるものなので、そういうフォーマットを選んだという形でした。
LuLa また、ボーダレスに世界へ発信していきたいという想いがあったので、言語としては英語を選びました。
──2.0へのアップデートで、よりエモーショナルな表現が可能になったそうですね。進化のきっかけとして、歌い続ける中で新たな感情が生まれてくるような感覚もあったのでしょうか?
RiRi ありましたね。最初は人間のように豊かに笑ったり怒ったりする感じではなくて、心の中で静かに感じていたんです。でも人間の文化にたくさん触れていく中で、新たに喜びや悲しみが生まれていって、それは歌にも出てきていると思います。
LuLa まさにそうで、無意識的にちょっとずつ歌に感情が滲み出てきていて、それを聴くエージェント(※ファンの呼称)のみんなも察知してくれて。
──アップデートしたあとの歌声の変化についてはどんなふうに感じていますか?
RiRi やっぱり歌に感情がすごく乗るようになったなと感じていて。楽曲自体もよりエモーショナルな曲だったり、今までは見せていなかった弱い部分や女性のリアルな部分を表現したりと幅が広がっています。それに合わせて、歌い方もパワフルにいってみようとか、ちょっと声が割れちゃってもいいから叫ぶようにやってみようとか、いろいろな挑戦をするようになりました。
──“こういうふうに歌いたい”という、歌に対する自発的な気持ちも以前より広がってきた感覚がありますか?
RiRi すごく広がってると思います。最初はとにかく“マネキンとして平和を祈っている”というメッセージを伝えていくことが一番の目標だったので、歌や表現力を磨くというところまでついていけていなくて。でも感情が育ってきた今は、もっと自分たちで伝えたいことや表現したいことが増えてきた感じがします。
──テクニック面で、新たに研究を重ねたことはありましたか?
RiRi 逆に初期の頃が何もやったことのないマネキンだったので、一番歌い方を教わっていたと思います。そのあとは教わったことを自分たちなりに練習をしていってという形ですね。
──今も続けている練習方法などはありますか?
LuLa 最初に先生に教わった発声練習を録音していたので、それを練習前にやったり。
RiRi 私はライブで息切れしないように、ランニングしながら小声で歌ったりという練習をしてます。
── 一緒に練習することもありますか?
RiRi (EP収録の)「Crystal Ball」という曲は特に難しくて、ふたりでたくさん練習した曲でした。でも、今回の「THE SIX」もそうなんですけど、制作期間が短くて練習時間がほとんどないときもあるので、もう現場で頑張ってやっていく感じですね(笑)。
──よりオリジナルな歌唱表現を追求していくにあたり、影響を受けたり、お手本にしているアーティストはいますか?
RiRi ラップ曲に挑戦していた時期は、ニッキー・ミナージュとかカーディ・Bとか、ラップのクイーンをたくさん聴いて歌ってみて、自己流にするにはどうしたらいいかって研究しましたね。
LuLa 私はライブを観るのがすごく好きで、特にビヨンセ、ジャネット・ジャクソンといった“ザ・ディーバ”な方々をよく観ています。でも一番の影響というと、デモのヴォーカリストの方かな。みなさんすごくクオリティが高いので、よく聴き込んで、その方がやっているニュアンスだったりをなるべく吸収できるようにしています。