【インタビュー】関取 花、原点あり進化ありのニューアルバムに込められた多様な歌表現を語る。“会いたい人にも、会いたい自分にもきっと会える”

2022.07.16

取材・文:田代智衣里(Vocal Magazine Web)

喉で歌うから伝わる必死さや切実さもある

──「やさしい予感」はTBSラジオ『パンサー向井の#ふらっと』の交通情報テーマ曲になっていますが、オファーがあってから制作したのですか?

関取 そうですね。もともと番組のオープニングテーマソングのオファーが来て、その後に番組のスタッフさんとオンラインで打ち合わせをして、イメージをお聞きしました。実は「やさしい予感」は最初はオープニングテーマソングとして書いたんですよ。

朝日がじわーっと滲んでいくようなイメージで、バックで流れていても邪魔をしないようにといろいろ考えていたんですけど、1回提出したら“もっと好きにやっていいよ”というお話があって。それでもうひとつの案として出したのが「ラジオはTBS」なんです。

──「ラジオはTBS」はいろんな楽器の音が聴こえる楽しい曲ですね。

関取 TBSラジオさんのキャッチコピーが、“聞けば、見えてくる”なんですよ。だから、“聞けば、見えてくる”音を入れたいなって。バンドメンバーやエンジニアさんも“ビールのプシュって音を入れたら面白くない?”と提案してくれたり、パーカッションの朝倉真司さんが何も言っていないのにいろんな遊び道具を入れてくださったりしました。

──賑やかなメンバーの声や、最後に“いいんじゃない”という関取さんの声も入っていますが、アドリブ的な要素も入れたいと考えていましたか?

関取 もう、言ってないのにやるんです(笑)。本当にアドリブですね。それを止めずに録っていてくれているエンジニアさんの腕と感覚もあると思います。今回はエンジニアさんがバンドメンバーみたいに居てくれたんですけど、その“いいんじゃない”も、1テイクをツルッと歌い終わって、もうこれだなと思ったから“いいんじゃない?”ってエンジニアさんに向かって言った声をそのまま録っていたんですよ。

──では、「ラジオはTBS」は1テイクしかレコーディングしていないんですね。

関取 はい。確か、直しもゼロなんです。ミックスが上がってきて聴いたらその声が入っていました。私は本当にこれでいけたと思ったとき、まだギターの余韻があるのに“もう、これでしょ!”とか、“これ、いったでしょ!”とか言うんです。エンジニアさんはプリプロから一緒にやらせていただく中で、そういうことを面白がってくださる方だったんですよね。

これは1曲ツルッと1テイクだけで歌えた面白さもありますし、そういうときの私をそのまま残してくれたものになりました。

──「明大前」はミュージックビデオが先行公開されましたが、アコースティックギターとドラムと歌のみの構成となっています。このアイデアはどんなところから湧いてきたのですか?

関取 1日に何曲もプリプロをしていたので、最初にバンドでもやってみたんですけど、なんかハマらなくて。一人ずつ引いていきましたね。鍵盤じゃないな、ベースいるかな、弾き語りでもないな……と。それで“私、この曲はドラムと2人がいい気がするんだよね”と伝えました。

──特に2番のサビ以降は叫びのようでもあって、1曲の中での歌表現の変化も大きく感じます。

関取 この曲はわかりやすく地声とミックスヴォイスが切り替わっていて、2番以降のサビは基本的に全部地声だと思います。喉で歌うって良くないと思うんですけど、喉で歌うから伝わる必死さや切実さもあると思うんです。

言いたいことが言えないとか、なんでまだこんな状況なんだって苦しさとか、もがきみたいなものを出すために、あえて喉で、地声での歌い方を意識しましたね。

──最後の《いつまでこんなこと》は約5秒の間にしゃがれ声、ため息、泣きそうな揺れのようだったり、ひとつのフレーズに表情が詰まっています。ここも少ないテイク数の中での表現だったのでしょうか。

関取 たぶん、2テイクぐらいです。どちらかをベーシックにして進めていきましたね。

──テイクは部分部分より、1テイク目か2テイク目のどちらかを選ぶことが多いですか?

関取 基本的にはそうですね。連日レコーディングがあって体力が持たない日もあったので、部分部分でも何度かやってみたんですけど、ダメで。全然伝わってこなくて、結局ツルッと2テイク歌ったものになりました。

最新情報

ヴォーカルや機材、ライブに関する最新情報をほぼ毎日更新!