高橋 優、デビュー10周年を飾る、弾き語り武道館公演 2022.02.08【黒橋優の日】

取材・文:藤井 徹(Vocal Magazine web)撮影:新保 勇樹
高橋 優 10th Anniversary Special 2Days 『弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優』
【黒橋優の日】2022年2月8日(火)東京・日本武道館

高橋 優 10th Anniversary Special 2Days『弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優』が、
2月8日(火)、9日(水)に日本武道館で開催。
自ら【ダークサイドの黒橋優】と【ほんわかサイドの白橋優】をテーマにして、
2日間で被りなしの全44曲を原点である弾き語りで歌い上げた。

まさにデビュー10周年の集大成を見せつけた2Daysのうち、
ヒリヒリとした感情と核心を撃ち抜く強い歌詞が印象的なナンバーをそろえた
【黒橋優の日】の模様からお届けしたい。

主役を待つ手拍子が徐々に強くなり、場内が暗転するとセンターステージ上部モニターに高橋が生まれてから現在までの写真が次々と映し出された。あどけない顔の少年が爽やかな青年となり、次第に歌を武器に闘ってきた力強い男の顔つきに変化していく。そして、2022年の写真と重なるようにして、舞台袖のリアルタイム映像と入れ替わる。万雷の拍手を浴びて高橋が花道に登場。赤いシャツに黒いパンツ姿。四方に手を振り、Vサインを掲げながらゆっくりと歩を進める。

初っ端の曲はギブソンを肩にかけ、マイナーコードのストロークが激しくかき鳴らされる「こどものうた」だ。“黒橋優”のオープニングとしてこれ以上ないチョイスにオーディエンスが腕を振り上げ、拍子を打つ手に力がグッとこもる。演奏後、用意されたマグカップに口をつけると「陽はまた昇る」へ。CD盤よりほんの少しテンポを落としたこともあって、歌詞がよりストレートに届いてくるようだ。

最初のMCでは、来場者への感謝を述べるとともに、“黒橋優”についての解説(?)が語られた。高橋が言うには、“心の中でヒリヒリした部分を楽曲に起こしてリリースすると、「出た、黒橋!」、「今回は黒橋だ」という言葉がどこからともなく僕の元へも聞こえてくるようになった”と。その上で“黒いからこそ、光が差した部分がよく見える。真っ黒な部分から、皆さんと光や希望を感じられるひとときにできればなと思っております”と語る。

その後、ステージが360度回転することを披露し、着席を促してライブが再開。自身の名がトラスロッドカバー(ヘッド部分にあるカバー)に記された黒いギブソン・ダヴを手に「風前の灯」、「雑踏の片隅で」とストリート目線の楽曲を投下していく。感情を排した歌詞に映した視線の先に見える温かな心情。まさに真っ黒な中に注ぐ光と希望をその声に乗せていった。さらに愛の終わりの瞬間を歌う「スペアキー」、ストラトキャスターに持ち替えて「誰がために鐘は鳴る」を張りのあるトーンで熱唱。

続くMCでは、ツアースタッフへの差し入れについて。武道館の最寄り駅である九段下に出店するいちご大福などを大量購入した際、店員に“明日もきっといい日になるよ”と言われたそう。この流れから“あの曲か?”と思わせたが、そこは“黒橋優”なので、別のオチに持っていき、「人見知りベイベー」でロックンロールをかます。「ボーリング」ではギターに歪みとコーラスを加えて雰囲気に変化をつける。歌唱面でも一瞬の高音使いやロング・ビブラートと聴きどころたっぷりだった。

雪にまつわる話とSNSでの“北国マウント”に触れたあと、アコギに持ち替えて四つ打ちビートの「いいひと」へ。笑顔→真顔→ヒヒヒ→ラスト“北国マウント〜”と叫ぶ、“黒橋っぷり”の流れにマスク内でニヤリとしたファンも多かったはず。「オナニー」は後半で《あなたの声を聞かせてくれませんか》を《皆さんの手拍子を聞かせてくれませんか》に変更。一段と手拍子がその強さを増していく。さらに《いつの日か声を聞かせてくれませんか/その日は必ずやってくる》と。ラストへ向けてブルースハープの音色と声をぶつけてくる高橋。ここまでで一番の一体感が武道館を包み込んだ。白いレーザーで作られた花びらが天井を埋めた「ほんとのきもち」は、サビのリフレインで目を閉じ、身体を揺らしながら歌う姿が印象的だった。ストリングスが効いていた音源盤に負けない、ドラマティックな音像がそこに生まれた瞬間だった。

ここで足元に用意されたBOSSループステーションを駆使して、“ひとり多重パート”で曲に彩りを加えていく。最新アルバム『PERSONALITY』収録で新境地を示した「room」に続き、シェイカーとギターのハモリを録ってからスタートした「CANDY」では、円形ステージを囲むように静かな炎が上がった。再びストラトを手にした「旅人」は一転して直球勝負でスケールの大きな楽曲を歌い上げる。

恋人との別れを描いたバラード「誰もいない台所」はフィンガーピッキングでしっとりとプレイ。切々とした歌い方が胸に迫る。この曲が“黒橋優”のセトリに組み込まれたことは、少し驚きを持って受け入れられたのではなかろうか。

高橋も客席も立ち上がって、ここからいよいよ後半スタート。バスドラ代わりにギターのボディを叩いてビートを出し(スラム奏法)、リフを重ねていく「(Where’s)THE SILENT MAJORITY?」。手拍子も重なって弾き語りとは思えない音圧になっていく。さらに印象的なリフと16ビートのファストナンバー「象」では、“前に行ってもいいですか?”とステージ前方へ進みつつステージも回転。ファルセット&地声を何度も行き来するエモーショナルなヴォーカルでヒートアップさせる。

ギブソンJ-45に持ち替えギタータッピングで幕を開ける「ルポルタージュ」では一斉にタオルが振り回された。声は出せないが、みんなピョンピョンと跳ねて思い思いに楽しんでいる。高橋のヴォーカルのロックサイド全開のナンバーで、強いメッセージをキレのある歌声で届けてくれた。さらにハードボイルドでドラマティックな「太陽と花」で畳み掛ける。後半には次々とギターでハーモニーを重ねるなどループステーションを効果的に使いこなし、まるでバンドのような分厚いサウンドの中で、歌がより自由になっていくようだった。

10年の活動を振り返り“それぞれの人たちが今を生きる主役。脇役なんていないし、必要ない人間なんて一人もいないと思っています。僕にとっての始まりの曲”と語った本日20曲目にして本編ラストナンバー「素晴らしき日常」が武道館に響きわたる。

きっと“黒橋優”の世界線も、“同じ日常”で“白橋優”の世界線に繋がっている。このメジャーデビュー曲からずっと彼はそう歌っているのだと思った。《間違いだらけでいいじゃないか》《天国にも地獄にも変えられるよ》《きっと世界は素晴らしい》と。

アンコール1曲目、大きな手拍子に包まれた「駱駝」でも、高橋は《絶え間のないリバーシ 挟まれて裏表》と歌う。そして最後の1曲は、“言葉、歌詞、そういったものを僕は死にもの狂いで、死ぬ直前まで届けていく決意を書いた曲です”と語って届けられた「プライド」。ゆったりとしたJ-45でのストロークとブルースハープの音色のイントロという、アコースティック最強のコンビネーションにウォームな力強い声が重なる。中盤のブレイクあけ、ヴォーカルのギアが明らかに一段上がった。もちろん高い歌唱力は持っている。だが、それ以上に“伝わる声、伝わる歌”を歌えるのが高橋 優というヴォーカリストなのだろう。

歌い終えると東西南北のそれぞれに向け、“ありがとうございました”と肉声を届けたのちに中央へ。何度も“また会いましょう”と告げながら、ステージをあとにした。

2日目【白橋優】レポートはこちら


公演情報

高橋 優 10th Anniversary Special 2Days「弾き語り武道館〜黒橋優と白橋優」2月8日【黒橋優の日】
2022年2月8日(火) 日本武道館

<セットリスト>
01. こどものうた
02. 陽はまた昇る
03. 風前の灯
04. 雑踏の片隅で
05. スペアキー
06. 誰がために鐘は鳴る
07. 人見知りベイベー
08. ボーリング
09. いいひと
10. オナニー
11. ほんとのきもち
12. room
13. CANDY
14. 旅人
15. 誰もいない台所
16. (Where’s)THE SILENT MAJORITY?
17. 象
18. ルポルタージュ
19. 太陽と花
20. 素晴らしき日常

アンコール
21. 駱駝
22. プライド


リリース情報

「HIGH FIVE」高橋 優
『侍たちの栄光 〜野球日本代表 金メダルへの8か月』テーマソング
2022年2月25日(金)午前0時 配信リリース

高橋優「HIGH FIVE」MV

関連リンク

高橋 優オフィシャルサイト

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