取材・文:後藤寛子
2021年にデビュー10周年を迎え、ベストアルバムを含む13ヵ月連続リリースや初の武道館公演開催など、精力的な活動を繰り広げたMs.OOJA。充実の10周年を駆け抜けた彼女は、次なる一歩に、自身で「ライフワーク」と呼ぶカバーアルバムの制作を選んだ。
2020年にリリースされた『流しのOOJA〜VINTAGE SONG COVERS〜』の第2弾として、今回も70~80年代の歌謡曲から12曲をセレクト。より多彩になった表現力で、名曲たちに新たな命を吹き込んでいる。
「恋人よ」などの歌謡曲らしい情熱的なラブソングはもちろん、「六本木純情派」、「飾りじゃないのよ涙は」などの艶やかなアイドルソング、The Weekndがサンプリングしたことで海外からの日本のシティポップの再評価につながった「MIDNIGHT PRETENDERS」まで、さまざまな歌謡曲カバーを通して変幻自在に進化するMs.OOJAの歌が詰まった『流しのOOJA 2 〜VINTAGE SONG COVERS』。
今作に込めたカバーへの想いやこだわり、歌謡曲の魅力についてたっぷり語ってもらった。
今の私が歌うのにぴったりな曲がたくさんある
──前回は武道館ライブの前にインタビューさせていただきましたが、その武道館も成功し、10周年を越えた手応えは感じていますか?
Ms.OOJA そうですね。やっぱりここ1〜2年はずっと武道館ライブのことが頭から離れなかったし、10周年の重みを感じていたので。それが終わって、ひとつ殻が破れたというか、自由になった気がしました。不思議なんですけど、未だに武道館でライブをした実感があんまりなくて、夢だったような(笑)、自分で映像を見ても不思議な気持ちになるんですよ。もちろん、ステージに立った時の気持ちは覚えているし、人生の中で一番幸せを感じた瞬間だったんじゃないかと思うくらいなんですけど、そんな自分で自分が羨ましくなるような感覚があります。でも、あの状況下であれだけの人が参加してくれて、たくさんの味方がいるんだなって感じたし、音楽でやれることの可能性が見えました。
──次の一歩をカバーアルバムから始めるという発想はどういうところから?
Ms.OOJA 『流しのOOJA』を2020年に出してから、ずっと第2弾をやりたいと思っていたんですよ。さらに武道館でカバーのコーナーをやった時に、自分にとってカバーというものには確固たる意味があるなあと改めて感じたので。このタイミングでやろうと思いました。カバーは昔からやっているんですけど、本当の意味で自分のライフワークになったなと感じたのは『流しのOOJA』だったので。10周年を経て、今ここにたどり着いた感はあります。今回『流しのOOJA 2』を作るにあたっても、すごくワクワクして、めちゃめちゃ楽しみながら作っていけました。
──カバーから得るものがあるんですね。
Ms.OOJA そうですね。やっぱり歌を好きになったきっかけそのものが、幼少期に歌謡曲を聴いて、子供ながらに歌っていた経験から始まっているので。あと、歌謡曲とかシティポップはちょっと大人っぽいイメージがあるので、私はもうすぐ40歳になりますけど、この年齢になってやっと歌えるという感じもあるんですよ。原曲は当時10代だったり若い方が歌ってらっしゃるんですけど、歌自体は大人っぽい曲が多いので。今の私が歌うのにぴったりなんじゃないかなと思う曲がたくさんありますね。
──膨大な候補曲があったと思いますが、選曲はどういう基準で進めていったんですか?
Ms.OOJA ライブ映像をアップしたYouTubeのコメント欄でファンの方からリクエストを募って、けっこうそれを参考にしながら選曲しました。そこから実際にカラオケに行ってみて、自分ひとりで歌ったのをiPhoneで録音して、スタッフだったり、うちの母だったりに送って、意見を聞きながら。
──お母様が!
Ms.OOJA そうなんです。歌謡曲は、特に母の影響で聴いていた楽曲が多かったので。母も音楽がすごく好きで、私の歌い回しがちょっと違ったりすると、“こうだよ”ってボイスメモに歌を吹き込んで送ってくるんですよ(笑)。そうやってまわりのアドバイスをもらいながら、自分の声に合っていて、今私が歌うとしたら何がいいのかを考えて選曲をしていきました。これは歌うって決めていた曲もたくさんあったんですけど、かなり迷いましたね。全体のバランスとか、アルバムとしての世界観も大事なので。けっこうギリギリまで悩んでました。
──改めて、70~80年代の曲のおもしろさをどういうところに感じますか?
Ms.OOJA とにかく歌っていて楽しいんですよね。時代を越えて残る名曲って、一番その要因になるのは、もちろん聴いた時の曲の良さもあると思うんですけど、たぶん歌いたくなるかどうかにあると思うんですよ。歌って楽しくないと歌い継がれていかないし、名曲として残っていかないと思うんですね。だから、実際に私も歌っていてめちゃめちゃ楽しいんです。あと、歌詞がいわゆる昭和の世界観なので。当時の時代背景を感じるし、今の歌との違いがあってそこもおもしろいところだと思います。
──カバーのアレンジに関しては、けっこう原曲に近く、さらに生音メインになっていますよね。
Ms.OOJA 私の場合、原曲を変えるのがあまり好きじゃなくて。カバーする時は基本的にアレンジをあんまり変えないっていうポリシーがあるんです。今回は3人のプロデューサーにアレンジで入っていただいてるんですけど、どのプロデューサーもバンドサウンドにこだわってくれた感じがしますね。Ms.OOJAの音楽やライブでは、私の歌だけじゃなくてバンドサウンドのグルーヴ感がすごく重要で、そこを楽しみにしてくださっているファンの方もたくさんいるので、大事にしたところです。
──原曲に近いアレンジとなると、カバーとしてはある意味一番ハードルが高いように思いますが、そこはこだわりなんですね。
Ms.OOJA おっしゃる通り、原曲に近いアレンジで歌うのは、歌い手としてはけっこう難しいことかなと思います。でも、やっぱり今までカバーをたくさんやってきた自負もありますし、私だったらまた違う形で表現できる自信もあったので、そういうアレンジで進めました。あと、カバーする時は、自分自身が“歌いたい”という気持ちと同時に、歌い継いでいくことでみんなに歌謡曲を聴いてほしいという思いがすごく強いんですよね。だから、原曲の空気感を壊さないようにカバーすることにずっとこだわっています。でも、よく聴くとちょっと今っぽいアレンジになってる曲とかもあったりして、そのバランスもいい感じになってると思います。